第161回
スポーツの日に読みたい! 平尾剛さんの新刊『スポーツ3.0』
2023.10.09更新
本日10月9日は「スポーツの日」。
ここ最近、バスケットボールのワールドカップやバレーボールのパリ五輪予選、杭州で開催されているアジア大会にラグビーワールドカップと、日本代表の活躍もめざましい大きなスポーツの大会が目白押しで、いつも以上にスポーツが身近に感じられるという方も多いのではないでしょうか。
そんな今ぜひ読んでおきたいのが、元ラグビー日本代表・平尾剛さんの新刊『スポーツ3.0』です。東京五輪の強行、蔓延する根性論、酷暑下での部活動の是非など、スポーツが直面する様々な問題に対して、「スポーツ3.0」という新たな視点での解決を提示している画期的な一冊です。
9月30日の毎日新聞に「華やかなスポーツイベントに注目が集まる今こそ、読んでおきたい一冊だ」と書評が掲載されるなど、早速各所で話題となっています。
本日は、そんな本書について、著者の平尾剛さんご本人にお話いただいた模様をミシマガ記事でお送りします!
スポーツ「3.0」とは?
『スポーツ3.0』著者の平尾剛さん
――改めて、この『スポーツ3.0』というタイトルはどういう意味なのでしょうか。
平尾 まず「1.0」というのは、根性論が幅をきかせている時代のことを指します。「水を飲むな」と言われたり、うさぎ跳びをさせられたり。
その後、根性論はあかんとなって、科学的な根拠に基づく練習が入ってきた時代のことを「2.0」と名付けました。すべて科学的な根拠がなければならない、決められた方法をなぞっていれば上手くなる、という考えが蔓延したのが「2.0」の時代です。
その代表格が筋トレです。筋トレはやればやるほど大きくなるから楽しいので、僕自身も現役時代ハマりました。ただ、筋トレをすればラグビーが上手くなるかというと、それはまた別の話なんです。筋力をつけ過ぎてパスが放れなくなるという現象も起きています。(*編集部注:過剰な筋トレの弊害については、ぜひ平尾さんの前著『脱・筋トレ思考』をお読みください!)
根性論が幅を利かせた「1.0」の時代の反動で、「2.0」の時代は科学一辺倒になった。ただ、僕は「両方必要なんちゃうん?」と思うんです。このふたつのいい具合の「あいだをとる」という姿勢・考え方が抜けてるんじゃないかと。それを「3.0」と名付けました。
暴力的な指導や言動はあかん。でも「ここを乗り切れ一発! 気合いだ!」というかけ声は必要でしょう? だから、科学か根性かの両極端ではなく、適度な厳しさを保つための指導のしかたを考えましょうということを、「3.0」という言葉にこめてみました。
東京オリンピック以降、スポーツの価値が下がって、スポーツに対する社会の見方が厳しくなっていると感じていています。そんな今、スポーツは過渡期を迎えていると思うんです。そんな思いでこの本を書き始めました。
――平尾さんがおっしゃったように、程度を調整しながら、ちゃんと必要なときは必要な厳しさを持ちつつ、でも楽しさもちゃんと追求していくという、みんなが本来スポーツに求めていたところにようやく来たなという感じがします。
仕事にも生かせるパス論
――この『スポーツ3.0』は全章すばらしいんですけど、特に冒頭の「わたしのパス論」というのが印象的でした。ラグビーの第一線で活躍していた平尾さんならではの「パスってなに?」というお話が、目から鱗でした。一番驚いたのは、パスは出し手よりも受け手が重要とおっしゃっているところです。
平尾 そうなんですよ。19年ラグビーをやってきて、パスはおもしろいと思いつつ、でも私自身当初は上手くいかずに、いろいろ考えてきたプレーのひとつなんです。
ラグビーのみならず、サッカーやバスケなど、すべての集団競技でパスがつきものだと思うんですけど、だいたい、「ええところに放れ」と言われるわけですよ。パスが繋がらなかったら、出し手のせいにされる。
ただ私のラグビー経験からすると違います。パスが繋がるためのキーは、受け手なんです。
たとえば、パスを出すときにいいところに放ろうと思ったら、ものすごい気を使って身体がこわばってしまうんですよね。パスは的に当てるわけじゃなくて、動いている人にちょうどいいタイミングで出さなくてはいけないのでなおさらです。
ただこれをひっくり返してみてください。受け手に「どんなパスでも取ってやる」と言われたら、割と気楽に放れません? ちょっとタイミングが遅いかもしれんなと思っても放れるようになりますし。パスが繋がらなかったときには、「ええパス放れ」じゃなくて「それくらい取ったれ」という声かけの方が上手くいくと思っています。
受ける側がどんなパスでも受けようと思うと、パスをする人をものすごく観察しはじめて、その人がいいところに放れるような場所・タイミング・その人の癖を探り出すんです。そうすると、2人の心理的な距離も近づいて、上手く流れ出すんです。
ーーおもしろい。これは仕事に直結する話ですよね。
平尾 そうですね。相手のいいタイミングで、適切な文言で、相手の気持ちを慮ってメールを送るのって難しいじゃないですか。でも「あの子やったら、お願いしたらサラッとやってくれそうやな」と思うとお願いしやすいし、そういう人のもとに仕事っていきますよね。だから仕事のやりとりも、日常のコミュニケーションも同じだと思います。本当にパスって奥が深いですよ。
このお話の続きをお聞きになりたい方は・・・
ここまでのお話は、9月に開催した「スポーツの『3.0』な楽しみ方 〜仕事も社会もスポーツも『3.0』の思考で!〜」の一部です。全編ご視聴いただけるアーカイブ動画を、期間限定で配信中です。ぜひ書籍『スポーツ3.0』とあわせて、本イベントもご視聴ください。