第163回
『野生のしっそう』に熱い反響が・・・! 書店員さんからいただいたご感想を紹介します
2023.12.12更新
こんにちは、ミシマガ編集部です。
先月発刊した猪瀬浩平さんの『野生のしっそうーー障害、兄、そして人類学とともに』。
猪瀬さんとその兄は、ある日は自分たちの福祉農園で、ある夜は突発的な「しっそう(失踪?)」によって、「障害とそれ以外」の枠を飛び越えてゆく。その実践が、猪瀬さんが研究する「障害とともにある人類学」を切り開き、その記録を読んでいるとロードムービーを見終わった後のような疾走感を味わえます。
そんな本書に、多くの書店員さんからご感想が寄せられました! 本日はそのご感想を紹介します!
『野生のしっそう ーー障害、兄、そして人類学とともに』猪瀬浩平(ミシマ社)
書店員さんから届いたご感想
とにかく、すごい本でした!
社会という大きな枠のなかで、個人の経験はあまりにも小さく、非力であるようにみえますがお兄さんやまわりの方々のふるまいには、ささやかではあるけれど、個人の持つ底力のようなものを感じます。
読む人によって、様々な感想を持つ本だなと思います。読んだ人と語り合いたい。
その時、すぐには言葉にならないかもしれないし、うまく話せないかもしれない。
でも、その場にいた者はまた、そこから自分の考えとの違いや重なり、そして自分自身の反応もまた受けとめて、味わったり、逡巡したりする。読む人のなかで変容していく、まさに「生きている」一冊!でした。
紀伊國屋書店 札幌本店 林下沙代さん
障害があるとされる人とないとされる人の間に引かれた線を前にしたときにどのように考え、どのように行動することを問いかけるような本でした。
SeesawBooks 窪田託也さん
世の中には(日本も、世界も)様々な生き方、考え方をする人々がいる。彼らの生き方を、私はどう肯定できるだろうか。他者は他者なのだから、無理をして全てをを肯定しなくてもいい。ただ、なにかのきっかけでつながる(著者は「からみあう」と言った)ことがあったときは、私は彼らとどういう話をするだろうか。
分かり合えないときは分かり合えなくてもいい。でも、その分かり合えなかった他者と、私はどう共生すればいいのだろうか。著者とともに「しっそう」する。著者の足を追いかける。読み終わったあと、なんだか不思議な気分になった。これも「しっそう」感か。私も「しっそう」してもいいのだろうか。
くまざわ書店 エスパル仙台店 関 康祐さん
まえがきだけでも圧倒されました。
"障害児"と知らされて、その人との間に線を引かれている感じ、知らなければその線はなかったかもしれないのにと思うと、なんだか複雑に感じました。
コロナという大きな出来事もいろんな人の人生を変えてしまったし、いろいろ考えさせられた。
きっとこの本は世の中の人の心のなかの小さな疑問に答えをくれるんじゃないかと期待してしまいます。
岩瀬書店富久山店 吉田彩乃さん
社会の一部としてのだれかを厄介者扱いしてしまっている自分と、
こうやって本を読んだりしてハッとしている自分。
まだ行ったり来たりしながらだけど、
代替不可能な隣人たちと、これからもともに生きたいと思いました。
栞日 梅迫菜摘さん
人生は出発点と到着点を結ぶ移動ではなく、曲がりくねった線が描き出す軌跡である。
研究者である筆者が、障害を持つ兄の行動について、自身の研究も踏まえた文化人類学的に考察している。冒頭の少し難解な理論に、兄と、兄を取り巻く家族や、福祉農園の人々の描写が生き生きと肉付けされていく。
これは、著者の家族の歴史を描いたエッセイとしても読める。兄の障害を軸に、父が築いた兄のための(?)福祉農園を背景に、日々の行事、日々の思いがつづられる。読み進めていく内に、著者と兄を取り巻く世界が、実感をともなって、あきらかになっていく。
障害を持った兄が、父の元へ突然向かい、しばらく一緒に暮らしやがて離れていくくだりは、兄の年老いた父への想い、喪失感が痛いほど伝わってきた。
そして、著者のおそらく研究テーマ「障害を持つ、あるいは理解が難しい他者との共生はいかにして可能か」への、この本での答えが胸にひびく。
それは「わかりあえないと思える他者も、今、この時代を構成している存在で大切なピースであり、このピースを抜きに世界はありえない」ということだろう。
あらためて「相模原障害者殺傷事件」の罪と原因について考えさせられる。けれど、この本を読むことによって、かすかな希望が見えてくる。
障害を持つ家族と共に生きるために、たどった著者と人々の軌跡に。
丸善 多摩センター店 山本千秋さん
読みながら、ページをめくる指が震えてきて、立ち上がって叫びたい気持ちをおさえるのが大変でした。生まれて、物心ついた頃からずっと考えていたことーー人生という物語における自己と他者、そして社会。それを「三種類の線」ととらえる人が同時代にいたなんて!!
1行目から、この数ページに私は夥しい傍線を引きました。いくつもの単語を丸で囲みました。
やさしい語り口ながら、いえ、その語り口ゆえに、猪瀬さんの言葉がゆっくりと沁みてきて、すぐに「これは多くの人にとって大事な本になる」と確信しました。
湘南 蔦屋書店 八木寧子さん
猪瀬さんとお兄さんの物語が、時間や場所を超えて語られる。
そのうち、ふと目の前に線が現れる。障害者と健常者、生者と死者、そして自分と他人。物語とともに、そのあわいを走り続ける。線が交錯していく。足元がおぼつかなくなり、私は居場所がわからなくなる。わからなくなったところがゴールであり、スタートなんだと思った。
読みながら思い出していたのは、2011年3月11日のことだった。画面の中に広がるショッキングな映像、そして増加していく死者/行方不明者の数。アナウンサーがその数字を読み上げるたびに、その数字の向こうには、膨大な時間と生があったのだということをぼんやりと考えては落ち込んでいた。未曾有の事態でありこれはニュースなのだから仕方ないのだとわかっていても、人間が「数字」として処理されていくような感覚に胸が抉られていた。
このことを思い出すことで、私はこの本と、私なりのやり方で重なり合っているような気がした。
ジュンク堂書店 名古屋店 岡田百合香さん
猪瀬さんは、お兄さんの行動を丹念に追いかけることによって、私たちが自然に行ってしまっている違いのある人の行動に関する勝手な解釈を可能な限り避けようとしています。
簡単に理解したような気になることは、こちら側が理解してあげる方、あちら側が理解してもらう方という上下関係をつくってしまうことになると思います。
猪瀬さんはその安易な理解へのプロセスで踏みとどまり、あくまでもお兄さんの横に立って同じものを見ようとしている、しかしそのことが常に「できる」わけではないことも自覚している。そのようなものの見方を示してくれていることが、障害のみならずあらゆる違いを抱えた人たちと日々接している人々にとって、大きな気づきを与えてくれるのではないかと思っています。
私が特に好きだった箇所は、「正気である」という状態の意味を猪瀬さんが「自分自身でその場に立ち現れた世界を受け入れながら、自分のあり方を実践的に調整していく」と語るところです。現実を前に、個人が縛られている常識などというものは大変小さなものではないかと思いました。相手が表現している世界を、自分の文脈に曲げることなく受け取る。そのことが、違いのある人と共に過ごすために必要なことなのだと思いました。
日々詩書肆室 村田奈穂
違いがあっても、「ふれる」ことはできる。
「共感」では生まれない世界観がある。
清風堂書店 谷垣大河さん
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紹介したご感想にもあったとおり、ぜひまず「まえがき」をお読みいただきたいです! 「この本は生きるうえでなにか大きなことを伝えてくれようとしている」という予感と、自分が感じていた生きづらさがほぐれていくことに気がつくはずです。
まだお持ちでない方は、ぜひお近くの書店さんで、お手にとってみてくださいませ。
編集部からのお知らせ
代官山 蔦屋書店さんで「猪瀬浩平選書フェア」を開催中
外なる他者、遠くの他者を扱ってきた文化人類学に、あらたな道を拓く実践の書「障害とともにある人類学」から始まり、「内なる他者」を対象とした人類学へと展開するあたらしい学問のあり方を提示した本書の刊行を記念し、著者の猪瀬さんに「原点の1冊」「表象する、代弁する」「驚異と出会い」「迷うこと、つくること」「経験を分解する」の5つの観点から選書して頂きました。
(代官山 蔦屋書店さんホームページより)
代官山 蔦屋書店さんのポッドキャスト「代官山ブックトラック」で本書をご紹介いただいています!