第185回
『青い星、此処で僕らは何をしようか』発刊のお知らせ
2024.12.06更新
本日2024年12月6日、全国書店にて、『青い星、此処で僕らは何をしようか』(後藤正文、藤原辰史著)が発売となります。
同じ生年月日のお二人
1976年12月2日。同じ日に生まれたお二人が、時を経て出会ったことから、この本は始まりました。違う道を歩み、違う仕事をしながらも、同じ時代の空気を吸い、自分たちの時代の問題に向き合ってこられたお二人。
本書には、まずは生年日の新聞を読み、語らうことからスタートし、映画を共に観て往復書簡を交わし、フィールドに立ち学んだ過程が収められています。
むやみに楽観的になることもなく、むやみに悲観的になることもなく、自分たちが生まれた星で、何ができるかをじっくり考える。義務感や倫理的な努力からではなく、肩の力を抜いて。それって、できるよね、ということが、お二人の対話から、文章から体に沁み込んでくる。そんな一冊です。
「はじめに」を公開します。
本書の発売を記念して、ここに、藤原辰史さんによる「はじめに」を公開いたします。なぜ、このタイトルなのか。ぜひお読みください!
はじめに
一九七六年十二月二日、大気に満たされた青い星に生まれ落ちた二人が、無限にあると思われた時間と可能性の中で何をしようかと、あちこちウロウロキョロキョロしながら、結局あることを始めました。一人は音楽、一人は学問。本書のタイトル『青い星、此処で僕らは何をしようか』には、そんな「始まり」に対する畏れや不安がたっぷりと表現されています。とともに、それでも誰かが何かを「始める」ことを抱き留める、青い星の「懐の深さ」もまた表現されています。
このタイトルは、著者の一人である後藤正文さんが属するロックバンド、ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)の「惑星」(二〇〇八年)という歌の一節です。もう一人の著者である藤原がこのフレーズに心を奪われ、本書の第一稿ができあがった段階でタイトルとして編集部に提案しました(編集部と相談のうえ、歌詞では「僕」ですが、二人の対談の本ということで「僕ら」となりました)。
なぜ、このタイトルか。あえて理由を挙げるとすれば、それは三つくらいあると思います。
第一に、二人の対談と往復書簡は、何を成し遂げてきたか、という過去よりも、ここで何を始めようか、という未来への働きかけの言葉を探すことだったと改めて思ったからです。あちこち現場を歩いたり、作品を鑑賞したり、言葉を交換したりしながら、過去を点検し、未来を想像するこの本にとって、「此処」という近称の指示代名詞と、「何をしようか」という呼びかけにも聞こえる疑問形はふさわしい。そう私は考えました。
第二に、二人で鑑賞した『阿賀に生きる』(一九九二年)という新潟水俣病を扱った映画の中で、青い星に垂れ流した有機水銀の呵責なさを確認したことでした。私たちの小さな体が母親の胎内から取り上げられたとき、毒物に冒されていなかったのは偶然にすぎませんでした。なぜなら、青い星に満たされていたのは大気や海水だけではなかったからです。青い星の住人たちの憎悪や虚栄心、核実験で放出した無色の放射性物質や、産業社会が生み出す黒煙、戦争によって燃え盛る炎、そして有機水銀に汚染された水によってもこの地球は覆われていました。このタイトルが表す色彩こそ、私たちが本書で詳細に辿っていく負の歴史を表していると思うのです。
第三に、「青」という色への思い入れです。青とは爽快の象徴であるとともに、未熟の象徴でもあります。これは、二人が、一九七六年十二月二日の新聞を読んで、生まれ落ちた「此処」を解説するのではなく、「学ぶ」ところから本書が始まることと深くかかわっています。一九七六年から二〇二四年までの失望と流血だらけの時代は、少なくとも私たち二人に成熟と達観を許しませんでした。嫌なことがあればそれを飲み込んで耐えることを、二人とも選びませんでした。政治の劣化に対しても、「此処」の緊張感の中で沈黙を選びませんでした。そんな二人の仕事の達成ではなく、抗いの過程を表現するのなら、青という言葉こそふさわしいのではないか、と考えました。
ロックミュージシャンと歴史学者という稀なコラボレーションによって、同じ誕生日であるという偶然さえも後景に退くような、不思議なグルーヴが幾度となく現れることを読者のみなさんは確認するでしょう。あらゆるメディアを通じて今後も続く共同作業の「始まり」として、この本を読んでいただければ幸いです。
著者を代表して 藤原辰史
サイン本をつくっていただきました。
著者のお二人のサインが入ったスペシャルなサイン本が、冊数限定で書店に並びます。取扱書店は、こちらのページにご案内しております(サイン本の数には限りがございます。最新の在庫状況は直接店舗へお問い合わせください)。
2025年1月29日、お二人のトークイベントを開催!
2025年1月29日(水)、紀伊國屋書店梅田本店(会場はOIT梅田タワー2階)にて、後藤正文さんと藤原辰史さんによる、『青い星、此処で僕らは何をしようか』刊行記念イベント「此処で僕らは何を語ろうか」を開催することが決まりました!
本書で、語り足りなかったことや、発刊からひと月半が経ち、あらためて発見したこと。さらには、この時代をともに生きる人たちへ、お二人がどうしても伝えたいこと、などなど―。生年日を同じくするミュージシャンと歴史学者が、互いに信頼を寄せ合う関係だからこそ語ることのできる話を、縦横無尽に披露いただきます。
会場参加のみ(オンライン配信なし)を予定しております。申し込み方法や詳細は、下記よりご確認ください。