トーキョーでキョートみつけたトーキョーでキョートみつけた

第30回

ふく

2021.06.04更新

「和服の女性」という未亡人で一人息子のいる女性を演じているからか、近頃は夢にも現れなくなった祖母のことが思い出されている。

 祖母はお洒落なひとだった。難病を持ち通院ありきの人生だったが、病院へ行く前に美容院に行かなければ気がすまないほど見目を重んじていた。日舞の師匠だったので和服は難なく着こなしていたが、洋服も好きでパンツとジャケットを様々に持っていた。今でこそ女性がよそゆきの場でパンツを履くのは当たり前のようになっているが、当時の京都の祖母のまわりでは珍しいことだったかもしれない。記憶にある祖母の出で立ちはツイードのジャケット、パンツにサングラスだ。手にはかっちりとした革のハンドバッグ。四条河原町に鎮座する高島屋へよく連れてくれた。

 早くに母を亡くしたわたしが多くの時間を共に過ごしたのは父方の祖母で、その祖母の影響からか小さいときから洋服が好きだった(着物も行事ごとによく着せられたが、苦行でしかなかった。子どもの成長に即して着物を用意し着付けてあげるなんて、わたしには到底できそうにない偉業だ。しかしつい着せられたと書いてしまう)。保育園に行く前に祖母が着る服を用意してくれていても、その日着たいものを自分で箪笥からひっぱり出して身につけていた。色、着心地、形などすでに強く好みがあったようだ。

 家賃、光熱費、食費など優先すべき出費があり、服を買うことはある程度自制しなければならない。それだのに服への興味がつきない。やすやすと手に入らないから興味がつきないのだろうか? と考えるが、手に入ったとしても興味が絶えることはないだろうと感じている。装いの変化は胸躍らせる。

 大学生になった頃、祖母は実家の居間に置かれた介護ベッドで寝たり、入院したりを繰り返していた。晩年苦労がつづき、もう自分のお金などほとんど残っていなかったはずなのに、わたしが出かけようとするといつも「さーちゃん、今度帽子こうてあげよな」と細い声で言った。そんなんええのにと半ば呆れた。同時に、祖母の通底した気概を感じた。あの声は今も心の抽斗にしまってある。

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早織

早織
(さおり)

俳優。1988年5月29日生まれ。京都市左京区育ち。
15歳から俳優をはじめ幾星霜。立命館大学産業社会学部卒業。
大学時代、内田樹先生の著作を読み耽りミシマ社に辿りつく。
《近ごろの出演作》映画『リバー、流れないでよ』(山口淳太監督)、『遠いところ』(工藤将亮監督)、『NEU MIRRORS』(Keishi Kondo監督)、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(大九明子監督)

早織 公式X

編集部からのお知らせ

6月上演の舞台『夜は短し歩けよ乙女』に、早織さんがご出演されます!

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舞台『夜は短し歩けよ乙女』
原作:森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」(角川文庫刊)
脚本・演出:上田 誠(ヨーロッパ企画)

 原作は、2006年に刊行され、「第20回山本周五郎賞」を受賞(2007年)し、累計発行部数160万部を記録している森見登美彦のベストセラー作品。京都を舞台に、後輩である「黒髪の乙女」に想いを寄せる「先輩」が、彼女の目に留まろうと日々奮闘しながら様々な騒動に巻き込まれる様を描きます。脚本・演出は、京都を中心に活動し、劇団公演は全国で2万枚超のチケットが入手困難になるほどの人気劇団「ヨーロッパ企画」代表の上田 誠が務めます。

 昨年8月に森見登美彦が、自身の小説「四畳半神話大系」(角川文庫)と、劇団ヨーロッパ企画の代表作、舞台『サマータイムマシン・ブルース』のコラボ作品「四畳半タイムマシーンブルース」(KADOKAWA)を刊行したことに対してのアンサーとして、上田氏の脚本・演出にて『夜は短し歩けよ乙女』を舞台化し、上演いたします!

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<キャスト>
中村壱太郎・久保史緒里(乃木坂46)
玉置玲央・白石隼也・藤谷理子・早織
石田剛太・酒井善史・角田貴志・土佐和成・池浦さだ夢・金丸慎太郎・日下七海・納谷真大
鈴木砂羽
尾上寛之・藤松祥子・中村 光・山口森広・町田マリー
竹中直人
<公演日程>
■東京公演 6/6(日)~6/22(火)
会場:新国立劇場 中劇場 東京都渋谷区本町1丁目1番1号
■大阪公演 6/26(土)~6/27(日)
会場:クールジャパンパーク大阪 WW ホール 大阪市中央区大阪城3番6号
<チケット情報>
チケット料金(全席指定・税込): 9,800 円
ぴあ/イープラス/ローソンチケット ほか各プレイガイドにて販売

公式HP

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