第31回
そら
2021.08.18更新
古ぼけたマンションに住んでいる。隣の敷地の、同じように古い建物が取り壊されはじめ、毎朝暴力的な音に見舞われている。目が覚めても布団の上で寝ぼけていたいのに解体の振動が体を揺さぶるため、いやいや起き出し、淡い集中力しか要さないスマホのゲームに逃げ場を求めている昨今。
休み。携わっていた仕事が終わり、井戸のように底の見えない時間(ほんとうは有限なのに)を感じると、次に何がやりたいだろうかとお湯を沸かしコーヒーを淹れながら思いをめぐらせる。直接的に演技とは関係のないこともあぶり出される。絵を描きたい。上方舞を習いたい。海で泳ぎたい。英語で文章を書きたい。お鮨が食べたい。どれが叶うだろうか? どれも叶えたい。
10代、20代の頃は「〜ができるようにならなければいけない」という言葉が頭の中をよく走っていた。できるようにならなければいけない。硬い言葉だ。
この発想から取り組んだものが今も心で息づいているかというと、鳴りを潜めている。あれは誰のためにできるようにならなければいけなかったのだろう? 何のためにできるようにならなければいけなかったんだろう? 浮かんでくるのは自分の気持ちではなく、父の声や昔のマネージャーの顔だ。わたしは自分らしくありたいと願ってきたが、他者に認められ評価されたいとも思っていたし、願いの渦に胸を苦しくさせ、迷いながら選択し、自分らしくとはいかなることかつかめないままに進んできたと思う。
30歳を過ぎてから、今わたしは何歳であったかわからなくなるときがある。焦燥が20代よりは落ち着いたからだろうか。景色の見えないまま暗い井戸を掘りすすめたら違う世界にたどり着いてしまっていた、なんて場合もあるかもしれない。絵空事か。
編集部からのお知らせ
「西村ブックセンター2021」に早織さんが参加されます!
ヨーロッパ企画の西村直子さんが主催する「西村ブックセンター2021」にて、早織さんが参加されます。
一行ことばを書いた小さな原稿用紙付きの、オリジナルステッカーを出品されるとのこと。またとない機会ですので、ぜひ、gallery LAKEWALLさんへお運びくださいませ!
詳細は、西村さんのインスタグラムにてご確認ください。
【概要】
「西村ブックセンター2021」
2021.8.25(水)~29(日) 12:00 - 18:00
(初日の12:00-16:00まで予約制、以降は予約不要。/最終日17:00まで)
※初日の予約詳細は、追って@sponge5656で告知します。
【 場所 】
gallery LAKEWALL
〒604-0881 京都市中京区坂本町686 CASA御所南2階A号
@gallery_lakewall @kitone_kyoto
【 参加作家 】
池本 惣一、池本 千代、井山 三希子、大歳 倫弘、黒木 正浩、ゴロゥ、早織、スケラッコ、角田 貴志、諏訪 雅、田口 陵とココナツホリデーズ、多田 玲子、玉川 桜、永野 宗典、永野 侑以子、細野 琢磨
【 おやつと飲みもの 】
atelier cafe bar誠平
嬉野 雅道 / 嬉野珈琲店
OJAS chocolate
滋味菓子屋
【 古本 】
100000tアローントコ
(敬称略・五十音順)
店内混み合わないよう人数制限をさせて頂きます。
ご来店の際には、マスクの着用と、入店時に手指の消毒をお願い申し上げます。
冷蔵のお菓子をご購入の際には、保冷剤をお付けします。
長時間のお持ち歩きで、気になる場合は保冷バックなどご持参ください。
※お支払い現金のみ