トーキョーでキョートみつけたトーキョーでキョートみつけた

第38回

まち

2024.12.28更新

 あかんわむっちゃ寒いとたぬきうどんをたべた。祇園に所用があってぷらぷらしていたら体が冷えきっていた。17時過ぎというまだすこし早い時間だった、いまたべるとこの日の夕食になってしまうのだろうか、まあでも深く考えずにとおかるさんに入った。凍える気持ちと空腹の悶えが心を占領していた。
 たぶんおかるさんを訪れるのは一年に一度くらい。そもそも祇園を歩くことがほとんどない。京都にいるときは意識的に観光客の少ない場所を選んで過ごしているからだ。バイトの勤務地も京都駅より南にあり、ひとおらんなあと自転車を走らせている。
 関西のうどん事情にお詳しい方はご存知だと思うが、京都のたぬきうどんはきざんだお揚げと青葱(ここは九条葱で)のあんかけうどん。わたしにとってのたぬきうどんはこのたぬきうどんでしかなく、もうどの地点からたぬきうどんの説明をしはじめていいのかよくわからない。京都におけるポピュラリティも。
 おかるさんのあんは出汁で葛を溶いているそうで(変わっていなければ)、つややかで喉ごしがよく体がぽかぽかとあたたまり、おなかの中心から手足の末端までそのあたたかさが持続する。たっぷりのおろし生姜ものっていて、葛と生姜、これ以上にあたためてくれるものがほかにあろうか。麺のやわらかさに、そうそう、となる。讃岐うどんのようなコシのあるおうどんが好きな方には「・・・これっておいしいの?」ってなるんかなあ、なるかもなあと思いめぐらせ、ゆっくりすすり口にふくむ。
 入店したときは何組もお客さんがいたのだが、たべおわるとひとりになっていた。外はこれからが御飯時。しばらくすれば店もまたにぎわいを見せるであろう、はざまの時間だった。若い従業員の方々のおしゃべりがとぎれとぎれに聴こえる。おかるさんに来るときはひとりの記憶が多い。金土日は深夜2時半までやっている。わたしはそこまで深い時間には来たことがないものの、その時間まで開いている、肩肘はらない場所を知っているのは落ちつくものだ。
 とっぷりと日の暮れた祇園の裏道を歩いていると、タナカコーヒさんの看板が目に留まり、店内をうかがう。こちらには一度も入ったことがない。遅くまで営業されていそうな光の輝きがあり、カウンターに立たれていたお店の方の背筋がうつくしかった。

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早織

早織
(さおり)

俳優。1988年5月29日生まれ。京都市左京区育ち。
15歳から俳優をはじめ幾星霜。立命館大学産業社会学部卒業。
大学時代、内田樹先生の著作を読み耽りミシマ社に辿りつく。
《近ごろの出演作》映画『リバー、流れないでよ』(山口淳太監督)、『遠いところ』(工藤将亮監督)、『NEU MIRRORS』(Keishi Kondo監督)、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(大九明子監督)

早織 公式X

編集部からのお知らせ

早織さんが舞台に出演されます!

2025年3月、劇団青年座さんの創立70周年記念公演『Lovely wife』という舞台に早織さんが出演されます。
脚本・演出は根本宗子さん。1月30日(木)よりチケット販売予定です。

Lovely wife
劇団青年座創立70周年記念公演第5弾/劇団青年座第260回公演

日程:2025年3月6日(木)~16日(日)
会場:本多劇場(東京)
一般前売開始:2025年1月30日(木)11:00~

詳細はこちら

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