ミシマガ野球部

第16回

栗山、中村の「すごさ」を、西武の誰かに受け継いでほしい
〈西村健〉

2024.08.21更新

いい最下位と悪い最下位

 私は、最下位には「いい最下位」と「悪い最下位」の2種類があると思っている。
「いい最下位」は、勝率4割以上。「悪い最下位」は、勝率4割未満である。
 勝率4割以上であれば、戦力的にやや劣るものの、相手にしてみれば決して侮れないチームであるといえよう。プロ野球チームの興行として、我慢できる範囲の「弱さ」といえるのではないか。
 だが4割未満のチームとなると、チームのどこかに機能不全を起こしていて、他チームとは歴然たる戦力差がみられるようになる。相手チームと戦う態勢が整っていない状態であることが多い。
 たとえば、昨年のセ・リーグ最下位の中日は勝率.406で、ぎりぎり「いい最下位」だった。なんといっても、48試合に登板し防御率0.39をマークしたライデル・マルティネスが圧巻であったし、横浜から移籍した細川成也がブレークして24本塁打を放った。
 一方で、2020年の最下位チームは、ヤクルトが勝率.373、オリックスが勝率.398で共に勝率4割未満だった。ヤクルトは10勝8敗・防御率4.61の小川泰弘がエースで、それに次ぐのは4勝のスアレスという弱体先発陣が最大のウィークポイントであった。一方のオリックスは、山本由伸が8勝4敗・防御率2.20、吉田正尚が.350 14本の好成績を収めたのだが、オリックスファンの私からすれば、とにかく西村徳文監督の采配にフラストレーションが溜まる年であったという印象が強い。それは私だけではなかったとみえて、西村監督は途中で辞任し、8月下旬から中嶋二軍監督が監督代行を務めている。
 なお、翌年の2021年に、ヤクルトとオリックスが揃って優勝したことは記憶に新しい。
 歴代のNPBチームを見てみると、1950年の2リーグ分裂以降の最下位チーム148チームのうち、勝率4割以上は68、4割未満は80であった(セ/37チーム パ/43チーム)。ただし、ドラフト制の導入以前(1965年)は各チームの戦力差が大きく、1965年以前に限るとセ・リーグ最下位16チーム中10チームが勝率4割未満、パ・リーグ16チーム中14チームが4割未満である。
 セ・リーグで最も勝率が低いのは、1955年大洋の勝率.238。首位とのゲーム差は実に61.5ゲーム差。パ・リーグでも、1958年の近鉄が勝率.238を記録している。首位とのゲーム差は49.5ゲーム差であった。ただ、このころのパ・リーグでは引き分けを0.5勝0.5敗で計算するというルールになっており、引き分けを除けば29勝97敗で勝率.230、大洋を下回る。
 2000年以降に絞ると、勝率4割未満の最下位チームはセ・パともに24チーム中9チームである。セ・リーグで特筆すべきは、2008年から5年連続でベイスターズが勝率3割台だったことだろう。1950年以降、5年連続勝率4割未満に沈んだのは、2008年―2012年の横浜と、1957年-61年の近鉄だけである。NPBにおける暗黒時代の双璧といえるだろう。ただし、57年の近鉄は最下位ではなく、最下位は勝率.318の大映スターズであった。ちなみに西鉄のエース稲尾は、56年から59年にかけて近鉄に対し22連勝しているが、これは同一カード連勝記録としては最長である。当時の近鉄ファンの、稲尾に相対したときの絶望感はいかばかりであっただろうか。
 一方、2000年以降のパ・リーグで特筆すべきはなんといっても2005年の楽天初年度だろう。勝率.281、首位とのゲーム差は44ゲーム差であった。勝率2割台は1970年のヤクルト以来35年ぶり、1950年以降でのべ9チーム目のことであった。

稀有なシーズン

 さて、2024年8月19日現在、勝率2割台にあえいでいるチームがある。埼玉西武ライオンズ、勝率.295。明日20日勝てば.302になるが、どうだろうか。
 仮に、西武の今シーズンの勝率が2割台になればかなりの珍事だといえる。西武がクラウンライターライオンズを買収して1979年から西武ライオンズとなって以来、勝率2割台になったことがないのはもちろんのこと、勝率3割台も初年度の1度きりなのである。なお、1979年以降の4割未満のシーズン数は、下記の通りである。

〈13球団別 1979年以降に勝率4割未満を記録したシーズン数〉

阪急―オリックス=6、南海―ダイエー-ソフトバンク=4、ロッテ=4、日本ハム=3
楽天=2、西武=1、近鉄(2004年まで)=1

大洋-DeNA=10、ヤクルト=5、阪神=5,中日=1、読売=0、広島=0

 意外なことに、といったら失礼だが、読売に並んで広島も0であった。西武、中日、読売、広島の4チームは、1979年以降、チームが壊滅的状況になったことはほとんどないといってよいのではないだろうか。
 中でも西武は1979年以降の45シーズンのうちAクラスが35シーズンと安定した強さを誇っていた。その西武が勝率2割台、諸行無常としかいいようがない。

栗山巧――偉大な凡人

 まさに歴史的なシーズンとなっているライオンズだが、このチームで主力選手として3度リーグ優勝を経験した「骨と牙コンビ」は、さぞやるせない日々を送っているのではないか。
 栗山巧と中村剛也。ともに2001年に高校を卒業して西武に入団。栗山はチームリーダーとして、中村剛也は主砲として長年ライオンズを支え、獅子の骨と牙のような存在だと並び称されている。入団後の23年間で、チームが最下位となったのは2021年の一度だけ、その年も勝率は.440で首位とのゲーム差は15.5であり、十分勝負できる状態であった。
 チームがはじめて迎えた真性の危機的状況を、この二人はどう打開しようとしているのだろうか。

 私が栗山巧に期待することは、自身と同じ「偉大な凡人」をチーム内に生み出すことである。
 栗山は2000本安打を達成しているが、2000本安打達成者の中では最も「天才性」に乏しい選手と言えるかもしれない。
 バットコントロール、長打力、走力、守備力、いずれも「そこそこ」の選手だといえるのではないか。この四要素の中ではバットコントロールがもっとも目を引くが、それでも10試合以上出場した19シーズンで、打率3割をマークしたのは3度だけである。
 もちろん、上記4要素をそこそこのレベルで備えているからこそレギュラーを獲得できたわけだが、それだけで2279試合に出場することはできないだろう(2024年8月19日現在)。彼の武器は、類まれなリーダーシップと、出塁数である。
 出塁数とは、安打+四球+死球。文字通り、どれほど出塁したかを表す数値であり、かつてセ・リーグではタイトル表彰もされていた。

 下記の「通算出塁数ランキング」をご覧いただきたい(表1)。なお、本来は打撃妨害出塁、走塁妨害出塁も加えるようだが、検索の仕方がわからないので(泣)、今回は外している。私は通算安打数よりも通算出塁数のほうが、より選手のチーム貢献度を表す指標になっていると思うのだが、いかがだろうか。

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 栗山は、通算安打数は33位(日本人メジャーリーガーは日米通算)だが、通算出塁数となると25位になる。「打撃の神様」川上哲治や、四球の鬼である鳥谷敬をも上回っているのだ。

 普通、四球が多くなるのは、真っ向勝負が避けられる傾向にある強打者である。強打者とは言い難い栗山の四球数が多いのは、栗山がとにかく丁寧にボールを判別し、できるだけ四球で塁に出ようと努めてきたからだ。
 栗山が最高出塁率のタイトルを獲得したことはない。最高出塁率を獲得するのは、やはり黙っていても四球になる強打者の面々である。しかし栗山は、泥臭く四球を積み重ねたことで、通算出塁数では超一流打者をもしのぐ記録を残したのである(シーズン試合数の差があり、栗山は過去の選手よりは有利ではあるが)。
 特に、同時代、同じポジションのライバルであった内川聖一をはるかに上回る出塁数を記録しているのが象徴的だといえよう。天才バットマンと称され、首位打者2回、MVPを1回を獲得している内川より、たたき上げで西武一筋を貫いている「凡人」栗山のほうが数多く出塁しているのだ。
 今の西武にも、おそらく栗山のような「そこそこ」のレベルの選手がいるに違いない。岸潤一郎とか?(岸は高校時代は大変な天才だったらしいが。) そういう選手は、栗山の姿勢を見習って、なんとしても出塁するという意識を持ってほしいと考える。

中村剛也の真価は「通算本塁打ランキング」ではわからない

 栗山とは対照的に、中村剛也は天性の長打力を備えた打者である。高卒2年目でイースタンリーグの本塁打王になり、4年目には249打席で22本塁打を放った。5年目、6年目は伸び悩んだのだが、高卒7年目に46本塁打を放って一軍でも本塁打王を獲得。その後の活躍は周知のとおりである。
 プロ入り後6年かけて技術を学んだことで、7年目にようやく持ち前の長打力が花開いたといえよう。そして現在(2024年8月19日)まで積み重ねてきた本塁打数は478本、現役1位であり、日本プロ野球歴代10位、松井秀喜の日米通算本塁打数をランキングに加えると11位である。
 だが、中村の真価は通算本塁打数ではわからない。前述の通り、中村は開花するまで7年の歳月を費やした。過去の大打者と比べると、遅咲きといえるだろう。中村の凄さは通算記録ではなく、シーズン記録の傑出度で計るべきである。
 そこで、「打撃3部門タイトル(首位打者、本塁打王、打点王)獲得数」のランキングというものを挙げてみたい(表2)。

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 中村剛也の打撃三部門タイトル獲得数は、合計10個で史上5位タイ。中村より上には王、落合、野村、長嶋しかいない。
 中村が特異なことは、くり返しになるが開花に7年かかったことである。だがいったん開花したら、リーグ随一の長打力の持ち主として他の追随を許さない存在となった。中村のように、西武の若手野手にも、天賦の才を秘めており、西武の育成力によって大きく育てられるのを待っている選手がいるかもしれない。村田怜音とか? 是非、中村自身にも、中村2世を育ててもらいたいものである。江夏豊が大野豊を育てたように。ほんとは山川が中村2世だったのだが、ああいうことになったので、中西太以来のライオンズの主砲の座を受け継ぐ選手が出現することを期待する。 

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