第22回
開幕前から借金談義〈松樟太郎〉
2025.03.26更新
いよいよプロ野球開幕。
こんな希望に満ちた時期に恐縮ですが、テーマは「借金」です。
といっても、ギャンブルマニアの某通訳の話ではありません。
勝ち越した数を「貯金」、負け越した数を「借金」という、野球界独特のあの表現についてです。
私は毎年この時期、
「開幕前は借金がないからいいよね。貯金もゼロだけど笑」
と言って周囲の人を苦笑いさせています。
でもこのネタ、ベイスターズファンの間では結構受けるというか、「そうだよね」みたいに共感されることが多いのです。
一方、他球団ファンの方にはたいてい、愛想笑いで返されます。
考えてみたら当然の話で、世の中には「借金が当たり前のチームもあれば、貯金が当たり前のチームもある」ということ。「借金ゼロだぜ。ヒャッホウ!」などと魂のステージが低い話をしている人ばかりではない、ということです。
で、調べてみました。
この20年間において、各チームは貯金を持ってシーズンを終えたことが多いのか、借金で終えたことが多いのかを。
ほぼほぼAクラス入りの回数と近いのですが、Aクラスに入っても負け越していたり、逆にBクラスでも貯金があったりすることもあり、たとえば阪神はAクラス15回で貯金13回、ロッテはAクラス10回で貯金11だったりします。
2005~2024年 シーズン終了時の各チームの貯金回数と借金回数
福岡ソフトバンクホークス 貯金18回 借金2回
読売ジャイアンツ 貯金15回 借金5回
阪神タイガース 貯金13回 借金7回
北海道日本ハムファイターズ 貯金12回 借金8回
千葉ロッテマリーンズ 貯金11回 借金9回
埼玉西武ライオンズ 貯金10回 借金7回(勝率5割3回)
中日ドラゴンズ 貯金9回 借金11回
オリックス・バファローズ 貯金7回 借金13回
東京ヤクルトスワローズ 貯金7回 借金13回
広島東洋カープ 貯金5回 借金14回(勝率5割1回)
東北楽天ゴールデンイーグルス 貯金5回 借金14回(勝率5割1回)
横浜DeNAベイスターズ 貯金5回 借金15回
これを見れば、この20年で借金シーズンが2回だけだったホークスファンに「開幕前は借金がないからいいよね」なんて言うことがちゃんちゃらおかしいのがよくわかります。ホークスファンにとって開幕とは「まだ貯金がない、物足りない状態」とすら言えるでしょう。
ライオンズがちょうど20年で貯金10回ですが、勝率5割ちょうどの年が3回もあったことに、意地でも借金だけは返すぞ、という王者の意地が垣間見えます。
このホークスからライオンズまでがいわば「勝ち組」で、いわば無借金経営を続けている企業と考えていいでしょう。
この人たちに借金うんぬんと言っても、響かないのは当然です。
そして案の定、我らがベイスターズは借金回数最多。ただし、カープさんと楽天さんとはどっこいどっこいの勝負で、たぶんこのチームのファンの方とは「借金談義」で盛り上がれそうな気がします。
でも、そう考えていくと、開幕戦はいわば、「たった1日で全チームが貯金組と借金組に分かれてしまう日」というわけです。
落合博満氏は「開幕戦は単なる1試合に過ぎない」と言っていましたが、「貯金か借金かの分かれ目」と考えると急に、カイジ的な雰囲気をまとってきます。負けたチームはエスポワール号に乗せられて限定ジャンケンさせられるんじゃないか、そんな緊張感を持ちながら、開幕を迎えたいと思います(カイジを知らない方、すいません)。
最後に、ベイスターズ栄光の「開幕連敗記録」を挙げておきます。
2002年 開幕5連敗
2006年 開幕6連敗
2009年 開幕6連敗
2021年 開幕6連敗(開幕8試合未勝利)
今年は東もバウアーもいるから、ここまでにはならないはず......だといいな。
文・松樟太郎
1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ビジネス書の編集をする傍ら、新たな文字情報がないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。著書に『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)、『究極の文字を求めて』(ミシマ社)がある。「みんなのミシマガジン」で、『語尾砂漠』を連載中。