明日の一冊

2025年2月

悪の芽角川文庫

悪の芽

貫井徳郎

自分がかつていじめの原因をつくってしまった人物が、無差別大量殺人事件の犯人になってしまった。そのことに苦しむ主人公は、自死したその犯人の動機を探り始めます。そのなかで、大きなテーマとなっているのが「他者への想像力」です。それらが欠如していると言わざるを得ないネットの誹謗中傷、「晒し上げ」のような行為が加熱するなか、主人公は理解し難い犯人のことを、ただ異常な人間だった、と結論づけるのではなく、わからないなりに理解しようとひとつずつピースを集めていきます。
主人公以外に、事件に居合わせた学生、かつてのいじめの首謀者、遺族など章によって異なる人物の視点も描かれるのですが、立場の異なる彼らにも「他者への想像力」というテーマが通底しているように感じられ、自分自身を顧みずにはいられなくなる一冊でした。
久しぶりにミステリーを読みましたが、ミステリー特有の、終盤にかけて一気に没入して読むスピードが上がる感覚、たまらないですね。

(ミシマ社 山田真生)

2025.02.03

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