第26回
福岡市とユマニチュード
2023.08.29更新
こんにちは。暑さがまだまだ続いていますが、お元気でお過ごしでしょうか。今回は日本で行われているユマニチュードの活動の中から、福岡市の取り組みをお伝えしようと思います。
私がユマニチュード、というケアの技法があることを知り、フランスに見学に行ったのは2011年の秋のことですが、その後、日本でユマニチュードを病院や施設などで働いている介護士さんや看護師さんなどの専門職の方々だけでなく、ご家族や学校、地域などでもユマニチュードを実践したいと思う方々にユマニチュードをお伝えする機会をいただいてきました。
その中に、福岡市があります。福岡市は2017年に健寿社会をめざす市の政策「福岡100」を始めました。その3番目の基幹プロジェクトとしてユマニチュードを選んでくださいました。高島市長とお目にかかった際に、「認知症を持つ人も、その生活を支える人もみんなが生き生きと暮らせる優しい街をつくりたい」というお話を伺いました。そのお考えのもとに現在「認知症フレンドリープロジェクト」が進められています。
まず、「福岡100」が始まる前の年に、福岡市にお住まいで家族の介護をしていらっしゃる方々を対象とした、「家族のためのユマニチュード」の講習を行いました。148人の市民が参加してくださったこの講習では、1ヶ月に1回の講習会を3回開催し、その合間に毎週「ユマニチュードのケアのワンポイントレッスン」を書いた絵葉書をお送りしました。ご参加くださった方々には、介護負担感と介護を受けている認知症をお持ちの方の行動心理症状について、講習会の前後の変化をお尋ねする調査にご協力いただきました。この調査では、介護を受けている認知症をお持ちの方の行動心理症状が軽減し、介護をしている方の負担感も軽くなったことが明らかになりました。英語なのですが、もしご興味のある方がいらっしゃいましたらその結果の論文はこちらで読むことができます。
何よりうれしく思いましたのは、この講習会にご参加くださった方々の多くが「とても役に立った」、「もっと早く知っておけばよかった」、「これから介護をする人に、ぜひ知ってもらいたい」とおっしゃってくださったことです。その中のお一人の大津さんご夫妻のインタビューがありますので、どうぞご覧ください。
「これから介護をする人に、ぜひ知ってもらいたい」というご意見をいかし、福岡では「ユマニチュード地域リーダー」が誕生しました。ユマニチュードの講習会を受けたご家族などが中心となり、地域の公民館や小中学校で、ユマニチュードを市民や子どもたちにお伝えする仕組みが誕生し、実践を続けてくださっています。
さらに、福岡市と共同で制作した児童向けのユマニチュードについて学ぶ動画も公開されています。この映像では福岡在住のユマニチュードのインストラクター(安武澄夫さん)がお嬢さんと一緒に出演しています。
また、福岡市では救急隊のトレーニングにもユマニチュードを導入しています。高齢者の救急搬送が増えて対応に困る状況が多くなっている中で、救急隊員がユマニチュードを学ぶことで迅速な救急搬送ができるようになった、と手応えを感じてくださっています。私も毎年消防局にお伺いできることをとても楽しみにしています。3年前に福岡市消防局がユマニチュードの導入についてご発表くださった映像もございます。
今年は、もうひとつうれしい取り組みが始まりました。認知症フレンドリーな福岡の取組みをさらに広げていくために、認知症に関するこれまでの取組みや最新の知見をお知らせし、情報発信していく拠点として、「福岡市認知症フレンドリーセンター」が9月15日に開設されます。その開設式に合わせて、ユマニチュード考案者のイヴ・ジネスト先生とロゼット・マレスコッティ先生が来日し、テープカットと共に、9月18日午後に記念講演を行います。
講演会のお申し込みはこのQRコードからできるそうです。
自治体のまちづくり政策にこのように長期にわたってユマニチュードを取り入れてくださり、その成果も上がっていることをたいへんうれしくありがたく思っています。
ジネスト先生は9月24日(日曜日)午前中に富山県立大学看護学部で開催されるユマニチュードの市民公開講座でもご講演なさいます。市民公開講座の詳しいプログラムはこちらでご案内しています。
参加費は無料ですが、事前のお申し込みが必要です。
多くの方々にユマニチュードについて知っていただく機会となればうれしいと思っています。