第8回
編集担当 三島にきく 『バンド』ができるまでの話
2019.11.16更新
こんにちは! ミシマガ編集部です。
2009年11月16日。この日が何の日かご存知でしょうか? そう。クリープハイプの名曲「バンド」の歌詞にもある通り、クリープハイプが結成した日です! そして本日2019年11月16日は、結成からちょうど10年の日。クリープハイプのみなさん、10周年おめでとうございます!!
『バンド』特設ページでは、前回、前々回と、聞き手を務めた木村俊介さんの言葉、そして装幀を担当された寄藤文平さんの言葉をご紹介しましたが、今回は、本書の編集を担当した代表の三島にインタビューを敢行しました。10周年の本日、クリープハイプとミシマ社の出会い、『バンド』ができるまでのエピソード、などなど初公開の情報をお届けします!
(聞き手、構成:田渕洋二郎 写真:新居未希)
どうして『バンド』をミシマ社から?
ーー クリープハイプ『バンド』は、どういう経緯でミシマ社から発刊することになったのでしょうか?
三島 もともとのきっかけは、尾崎世界観さんがミシマ社が年に一回出している雑誌『ちゃぶ台』を、創刊号から読んでくださっているという話を耳にしたことなんです。そんなことってあるのかな、と半信半疑だったのですが、その後尾崎さんが本を紹介するページで書評を書いてくださって「本当に読んでくださっているんだ!」と感激しました。
ーー おお!
三島 あとは尾崎さんが『祐介』や『苦汁100%』などを出されて本屋さん回りをされていたなかで、ミシマ社の本の賑やかな展開が目に入ったらしいんです。それでありがたいことに「今度出すんだったらミシマ社で出したい」ということを思ってくださっていたみたいです。
ーー それは嬉しいですね。
三島 それで2018年の1月に、ご縁があってお会いできました。その年に出した『ちゃぶ台』Vol.4にも小説『祖父と』を書いていただけました。
ーー 本書のテーマが『バンド』になったきっかけはありますか?
三島 今年の1月に2人で話す機会があったのですが、やはり尾崎さんの単著を出すとなると相当先になるだろうなと思ってたんですね。そこで、なにかのきっかけで、そういえば今年10周年ですねという話になった。たしかに、僕が大好きなクリープハイプの「バンド」という曲の中で「2009年11月16日」という歌詞が出てくる。それとつながったわけですね。
ーー ふんふん。
三島 ちょうどそのタイミングで、今回の『バンド』で聞き手をつとめてくださった木村俊介さんがクリープハイプにインタビューをした記事が、ヤフーのニュースで話題になっていたんです。
尾崎さんも、「メンバーがあんなに喋るなんて思ってもなかった」と木村さんのすごさに驚いてらっしゃって。そんななかで尾崎さんが「バンドは小さな会社だと思っている」ということを言われて、この切り口なら間違いなく面白い本になるなというのを確信しました。
インタビュアー木村俊介さんのすごさ
ーー おお! 編集者からみた、木村俊介さんのすごさはいかがでしょうか?
三島 とにかくもう、取材に臨むまでの準備が凄まじいんですよ。最初にドラムの小泉さんからインタビューをすると決まったのもおそらく数日前くらいかなと思うんですが、小泉さんがクリープハイプに入る前のことだったり、カオナシさんのインディーのときのアルバムのことだったり、知られざる情報までなぜか知っていた(笑)。
ーー すごいですね。
三島 そんなに調べているんだけれども、インタビュー時には資料も一切持たずに、丸腰の状態で臨むんです。それでインタビューがはじまって5分10分経つと、クリープハイプのメンバーもこのひとはただものではないと気づく。最終的には隠しても仕方がないというか、全部そのまま思ったことを正直に語ろうというふうになるんです。目の前でメンバーの方たちがどんどんノッていかれたのが印象的でした。
個人的なことを話すと、インタビューをしたのが3月だったので、僕は花粉症が本当に辛かったんです。もう息もできないぐらい苦しいなか3時間くらい聞いていたのですが、こういう状況においてさえ面白いと感じたのだから本当に面白いんだと思うんですよね。
『バンド』、本づくりの秘密
ーー 先週の『バンド』特設ページにもご登場いただいた、寄藤さんへの装幀のご依頼はどのような感じでお願いしましたか?
三島 本を作ろうとなった瞬間から尾崎さんと、デザインは寄藤さんにお願いしたい、と言っていました。当初、尾崎さんの要望としては、イラストがたくさん入ったデザインがいいと。しかもそのイラストも音楽とは関係のないようなアイコンがたくさんあるようなイメージと仰っていました。
でも、寄藤さんは、イラストじゃないと思うんだと仰っていて、文字だけのデザインがいいんじゃないかと。
それで何回か僕を通してそういったやりとりがあって、最終的に寄藤さんの事務所に尾崎さんもいらして話すことになりました。それでいろいろ雑談していたなかで、こういうイラストだったら可能性があるかもしれない、といってそのときにぱっと描いてくださったのがこのイラストです。
三島 4人の目線が全員違うところに向いていて、尾崎さんの言う「メンバーのズレ」がイラストのなかに見事に表現されていました。そのとき寄藤さんは、ちょうど「線で描く似顔絵」を開発されていたようで、それが発揮されたいいタイミングでした。
ーー 最後に、この本は400ページ弱あるわけですが、それがするすると読めてしまう秘密があったら教えていただけますか?
三島 やっぱりその場、その瞬間に、面白い生きた話がメンバーの中から出てきたということに尽きると思います。取材を受けるメンバーが、語っているなかでどんどん新しいことを発見したり、話していることに喜びを感じたりしていて。そういうライブで出てきた生きた言葉ばかり集まっています。それが400ページ弱続いてるというふうに考えたら、非常に贅沢な1冊になったかなと思います。
ーー 編集面の工夫はありますか?
三島 木村俊介さんからは、そのライブのエネルギーそのままの、見出しがない原稿で届きました。だから最初はその方向で本をつくろうかと思ったんです。でもやっぱり本は音声で聞くわけではないですし、読むときには息継ぎができたほうがいいなと思って。だから読者の方も呼吸を整えるっていう意味で、本文の言葉からピックアップした小見出しをつけ、このような形になりました。
ーー ありがとうございました。
※書店員さんからも感想が届いています。クリープハイプ好き書店員として知られるBOOKSルーエの花本さんからは、「メンバーのズレ」が表現された表紙のイラストに注目したこんな感想が!
カバーのイラストに象徴的だ。メンバーみんなバラバラの方を向いている。その四人が同じ場に立つことで生まれる音がある。言葉がある。情緒がある。軋轢がある。それぞれがそれぞれに語る「軋轢」こそが本書をスリリングなものにしている。ただクリープハイプというバンドがこの一冊にパッケージングされているとはおもわない。ここでは語っていないこと、今後語られるかもしれないこと。それがどんなふうに音や言葉、あるいはもっと得体の知れないものとして表現されるのか。楽しみでならない。(BOOKSルーエ 花本武さん)