第3回
私とミシマ社の本屋さん
2018.09.15更新
前回のミシマ社の本屋さん通信でもお伝えした通り、ミシマ社の本屋さんは、京都オフィスの移転にともない、9月いっぱいで営業を終えることになりました。閉店を知り、営業日には毎回たくさんのお客さんが来てくださります。そうこうしているうちに営業日も残すところあと3回。今日はミシマ社メンバーに、「私とミシマ社の本屋さん」というテーマでそれぞれの本屋さんの思い出を語ってもらいました。
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ミシマ社の本屋さんが城陽市で開店したのが2012年初春。その頃はまだ関西のメンバーが少なく、僕もよくお店番をしたものです。読者の方々と直接お会いするという機会は、出版社にとってありそうでなく、すくなくとも私にとってはずいぶん貴重な時間となりました。目の前に自分たちの本の読者がいる。この方々がしっかり届けていきたい。そんなことを思ったものです。今ではすっかり、こうした実感とともに本作りをすることが当たり前になっています。その意味でも、「ミシマ社の本屋さん」はたんなる売り場ではなく、共作の場だと僕はとらえています。この神宮丸太町に引っ越してからも、いい共作を数多くおこなうことができました。来てくださったすべての皆さまに御礼申し上げます。本当にありがとうございました。新オフィスに移ってからも、よろしくお願いいたします。(三島邦弘)
ながく活動の場であった東京を離れ、昨年の3月より京都オフィスに転勤となった私。同時に本屋さんの店番にも立つようになりました。まず嬉しかったのが、東京の知り合いが、出張のついでや旅の途中で本屋さんを訪ねてくださったこと。これは、やっぱり本屋さんとしてやっていたからこそだと思います。オフィスに行くのは気後れするけど、お店に行くなら、断然気楽ですし。にしても、ちょっとありえないくらいの数の方がわざわざ会いに来てくれて、本当に嬉しかった。あと、ふだん来てくださるお客様にも助けられました。地元京都や関西圏の方が多いので、西に住むのが初めてな私でしたが(来る前、若干ビビッてたのですが)、お客様との交流を通じて、この土地にすぐ慣れ親しむことができたように思います。また遠方からも定期的に顔を出してくださる方もいて、私は本当にこう、心の温かい、素敵なお客様に恵まれたのだなあと、そう思いました。「本屋さん」という場が持つ力はすごい、単にモノとカネをやり取りする以上の可能性を持った、出会いの場なのだということを改めて実感しました。(渡辺佑一)
3カ月に1度ほど、用事があって京都オフィス行くときの大きなお楽しみにひとつが、ミシマ社の本屋さん。お店番をする機会はそれほど多くなかったので、お客さん目線の思い出が多いです。朝、仕事が始まる前や、打合せの合間や、昼休憩などに、隙を見つけては本棚の前に座り込み、背表紙を眺める。そして、なんとなく、子どもの頃に図書館で味わっていた、"読んでみたい本に囲まれている幸福感"にじんわりと浸るのでした。たぶん他のメンバーからは、「ホシノさんて京都にくると、よく1階でボンヤリしてるな」と思われていたことと思います。(星野友里)
学生時代、まだ城陽にオフィスがあったころ、ミシマ社にお手伝いに来て2・3回目くらいのときに、ミシマに「ここで本屋さんをやろうと思うねんけど、どう?」と突然言われました。ふつーの一軒家の、ふつーの和室で、です。いちから本屋さんを作るのか! とわくわくして、当時の学生仲間とあれこれ考えました。どこの出版社の本を置きたいか。全部にポップをつけようか。実際にお店がはじまり、お客さんが来てくれて、本の話をするだけで楽しかったなあ。ミシマ社の本屋さんは、私の青春の1ページなのです。そんなこんなでオープンして早6年半。城陽から今の場所に移転し、来てくださるお客さんも増えました。ありがたや、ありがたや。いったん9月でクローズしますが、ミシマ社の本屋さんははじめたころからずっと、読者の方と直にお話しできるとてもたいせつな場所です。(新居未希)
土曜日、午後1時。ばたばたと店内の片付けを終えて番台に座る。レジ、というよりも番台といったほうが似合う場所。あ、お釣り準備するの忘れてる。本棚の3番目に見える本、1段上にあったはずなんだけど勝手に動いたのかな。エアコン入れないと暑くなってきた。ふすまが2センチくらい閉まってない。いろんなことを考えながらしばらく正座。まだだれも来ない。明るい店内はすーっとしている。畳の匂い。もうすぐしたらじゃりじゃりと足音がして、最初のお客さんが入ってくる。そのひと時が、なんというかとても「本屋さん的」だった。緊張している。もしかしたら今日はだれも来ないかもしれない。1日中こうしてひとりここからこの景色を眺めていることになるかもしれない。不安。だれか来たとしてもすぐに帰っちゃったらどうしよう。前来たときと変わってへんなーと思われているかもしれない。わざわざ来たのに期待はずれかもしれない。ふっと眠くなる。
お客さんはだいたい「こんにちは」といって入ってくる。思わず声に出た、という感じ。そんな店あるだろうか。最初の表情をじっと見ていた。店に入って2、3歩。きょろきょろとあたりを不安げに見まわす人が5割。親しげにこちらに話しかけてくれる人が3割。まっすぐに本棚を見つめる人が1割。そんな感じ。最初に1周。本を手に取りながら2周目。3周する頃には3、4冊の本を手に持っている。そんなお客さんを見ると安心する。そろそろ座ってみませんか? こたつあたたまってますよ、と心の中で声をかける。
レジに恐る恐る本を持ってくる人。「どこから来たのですか?」と聞くと堰を切ったように話し出す。ネットで見て、本を手にして気になって、たまたま通りかかって、友人に連れられて。北海道から沖縄、韓国、ヨーロッパから来た人もいた。
店に入った途端くるりとまわって帰っていく人もいる。1周だけして足早に去っていく人もいる。そんな人たちのことを想像する。間違っちゃったのだろうか、気まずかったかな、どこから来たんだろう。そんな人たちこそ、この店を続けていくための答えを持っている気がするのだけれど。
この場所で仲良くなった人もいた。近所の人。なんども顔を出してくれる人。手土産を持ってくる人。とくになにを話すでもなく、なんとなく同じ空間にいる。本を見ているような、相手を見ているような、ほとんど思い出せない曖昧な会話。気がつくともう窓の外は暗くなっている。
スリップを数えながら1日のことを思い出す。この本はあの人が買った、この3冊は同じ人のまとめ買い。ときどきまったくわからないスリップが出てきて手を止める。なんの本を買ったか見ないほど話し込んでいたのだろうか。スリップには驚くほどたくさんの情報がつまっていた。ちょっと物足りない日は自分用になにか1冊買っていこう。本棚を見渡す。知った景色。どこにどんな本があるのか、目を閉じてもわかりそう。そういえばこの本、今日3回も手に取られてたけど結局1冊も売れへんかったな。もうちょっとがんばれ。自分用に仕入れたあの本、もう最後の1冊や。次買うお客さん用に置いとこ。結局なにも手に取らずに1周しただけ。代わり映えのせえへん、せまい店やなあ。ぱちん、とレジを閉める。そんな1日。次の場所ではどんな1日になるのだろうか。(鳥居貴彦)
最初に訪れたのは学生時代。まだ京都オフィスと本屋さんが、城陽にあったころでした。その後、デッチとしてお手伝いをするようになり、他のデッチたち(当時は住み込みデッチもいました)と一緒に、仕入れる本を選書したり、POPを書いたり。休日にお店番をしていると、遠方からはるばる城陽までいらっしゃる方もいて、たいていゆっくりと過ごしていかれるので、お茶を飲みながらお話することも多々。なんだかゲストハウスのような空間でした。思い返してみると、いま一緒に働いているオカダや、お手伝いをしてくれているスミちゃん(メヒコ日記の!)も、このときにお客さんとして来てくれたのでした。でもまさか、数年後に一緒にお仕事することになるとは。本屋さんの空間って、来るもの拒まずで、ゆったりとした時間が流れているけれど、存外に人生の岐路でもあったりして、面白くもあり、恐ろしくもあり。たくさんある扉の先は、闇なのか、光なのか。人生、塞翁が馬。人生、ミシマ社の本屋さん。人生、行きがかりじょう、です。(池畑索季)
2015年の夏。ミシマ社の本屋さんで開催した「夏休み! ボギー家族TOUR2015」がなぜか妙に印象に残っています。『今までにない職業を作る』の装画を手掛けてくれたモンドくんの家族が福岡からやってきて、似顔絵やらトークやら、ライブやら、まあいろいろはしゃぐのですが、最後に親父のボギーさんを中心にして家族ライブがあったんです。一応ミシマ社は民家ですし、そんなに大きな音も出せないのでみんな若干遠慮しながらはしゃぐのですが、その空気感がすごく良かったのです。こういうライブができるミシマ社の本屋さんめちゃいいな、と思いました。田渕洋二郎)
京都府城陽市にミシマ社の本屋さんがあった頃、初めてお客さんとして足を運び、その居心地の良さにとても感動したことを覚えています。月に一回だけの土曜営業の日を狙って遊びに行っていました。(そして長居していました。)当時、本屋さんまで車で行っていたのですが、一度三島さんが本屋さんの店番をしていた時に行き、車を駐車場へ誘導してもらった記憶があります。また、店番をしていた池畑さんや鳥居さんに、お客さんとして会っていたことも。あの時、ミシマ社の本屋さんがあの場所になかったら、ミシマ社のことを知らないまま、働くこともなかったかもしれません。(岡田千聖)
店番を初めて経験したのは、今年の夏、京都オフィスへ転勤になってからでした。どんな顔で座っていたらいいのか、なにをしていたらいいのか、まずなんと声をかけたらいいのか・・・考えなくてもいいような些細なことをあれこれ考え過ぎて、いつも緊張しながらちゃぶ台の前に座っていました。気がつけばお客さんのほうがよっぽど気さくにいろんなことをお話ししてくださって、ライトアップが素敵な京都の城のことを教えてもらったり、会社の朝礼でミシマ社の本について熱く語ったんです、という方の、会社の話を聞いたり。それぞれのお客さんが毎週金曜日と月に一度の土曜日という限られた営業日をめがけて、新幹線の切符を買ったり、会社の有休をとったり、団体旅行の行程を抜け出したりしながら、じゃり道を進んで奥まった場所にあるオフィスへ足を運んでくださったということが、実は本当にすごいことなんだという思いが、いまこれを書きながらふつふつとわいています。(野崎敬乃)
モリが以前の仕事でボコボコに打ちのめされていた時期、有給をとって京都旅行に行き、ミシマ社の本屋さんに立ち寄りました。本を選んでいると、会社から電話が。慌てて庭に出て電話を取り、軒先で亀を眺めながら上司に謝ったのを覚えています。その日、甲野善紀先生の『今までにない職業をつくる』を買ったので、おそらく職業とは何かについて深い迷いの中にいたのだと思います。あれから数年経ち、先日、運営側としてミシマ社の本屋さんに行ったら「いしいしんじの大地蔵盆!」イベントの日で、子どもが駆け回り大人はビール飲んでいるカオス空間でした。前回とのギャップが激しくてクラクラしました。(岡田森)
編集部からのお知らせ
ミシマ社の本屋さん 残りの営業日
9月21日(金)、28日(金)、29日(土)
9月28日、29日にご来店くださったすべての方々にプレゼントをご用意いたします!
(といいつつ、ご来客数が想像より多く、なくなったときはごめんなさい・・・)
ミシマ社の本屋さんの住所はこちら。
〒606−8396
京都市左京区川端通丸太町下る下堤町90-1
ミシマ社サポーターDAY2018 を開催します
以下、ミシマ社サポーターの方へのご案内です。
この度ミシマ社京都オフィスは新しい場所へお引越しすることにな
ミシマ社サポーターDAY 2018 ~ さよならミシマ社の本屋さん &はじめまして新京都オフィス~
※集合時間・内容が当初と変わっています。ご注意ください※
■日にち:2018年9月29日(土)
■時間:18時~21時(途中参加でもかまいません!)
■場所:ミシマ社京都オフィス
<18:00~19:00 新オフィス見学会>
→新オフィスの住所はサポーターさんのみにお伝えしています。
この前に、ミシマ社の本屋さんの時間帯からいらっしゃる方は、
<19:00~19:30 現オフィスへ移動>
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<19:30~21:00 さよならミシマ社の本屋さん&サポーターDAY>
→現京都オフィスにて、みんなでごはんを食べながら、
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