第1回
『イスラムが効く!』刊行直前 内藤正典先生インタビュー(2)
2019.02.19更新
今週末2019年2月23日(土)に『イスラムが効く!』が発売となります。イスラム地域研究者の内藤正典先生と、イスラム法学者でありムスリムである中田考先生による対談本。『となりのイスラム』(内藤正典著)から2年半ぶりに、ミシマ社からは2冊目のイスラムに関する本が登場です。本を書き終えた内藤先生に、中田考先生ってどんな人? と訊いてみました。昨日の記事と合わせてお楽しみください。
(聞き手:野崎敬乃、長谷川実央、構成:野崎敬乃)
中田先生との出会い
ーー 中田先生とは、どのように知り合ったのですか?
内藤 同志社大学に「一神教学際研究センター」というのがあって、中田先生が先に神学部の先生になっていて、私が一橋大学にいた時にそれに呼ばれたんですよ。それで会って、話して、ああ、この人やっぱり本物だわ、と思いました。変に欧米の常識に妥協的なイスラム教徒の学者と違って、この人は本当のことを言うんだと思ったから、それで信頼してるんです。
イスラム教徒の学者って結構いるんですけど、やっぱり同じなんですよ。フランスにいるイスラム教徒やイギリスにいるイスラム教徒と同じで、相手に理解してもらおうと思って、あんまり危ない話をしない人が多い。だけど、中田先生はそこのところを非常にストレートに、というのは彼は法学の解釈をしても良いという免許を持っていることもあるんですけど、これが正しいか間違っているかという判断をつけたら、忖度しないでそういうことをはっきりと言っている。だから、我々にとっては非常にありがたい訳ですよね。ああでもない、こうでもないと言って、政治的なことを言うのを避けちゃう人だと、本音のところどうなの、っていうのがわからないじゃないですか。そこを一番スパッと言っているのは中田先生ですよね。
ーー 本書の冒頭に、同志社大学で内藤先生と中田先生が行ったイベントの話がありました。
私が同志社に移ってから、中田先生と一緒に、いくつか大きなイベントをやりました。なかでも忘れ難いのは「アフガニスタンにおける和解と平和構築」のための国際会議でした。中田先生の尽力で、もっとも強硬に政府と戦ってきたタリバンの公式の代表を招くことができたのです。タリバンだけでなく、他の反政府勢力も来ました。当時のカルザイ政権からも代表が来ました。敵対する勢力が一堂に会した最初の会話でした。中田先生がカタールに行ってタリバンの代表部と交渉し、私は日本政府との交渉にあたりました。(本文p.8より)
さらっと書かれてますけど、これって相当すごいことですよね。
当事者だけで話し合う
内藤 これ、7年前の会議の後、出町柳の居酒屋でやった懇親会です。タリバンとアフガン政府、その他の反政府勢力が全部揃ってるんですよ、ここに。
ーー しかもこんなに楽しそうに。
内藤 とにかく当事者を呼んで雑音なしに話してもらわなければ前に進まないだろうと。一神教学際研究センタが中心になってやったんですけど、そのとき欧米の学者は入れない。日本の政治家とか役所もでてこない。ただし学生の質問は一切規制せず、全部答えてねって言ったんです。そしたら、それで構わないと。
京都でやるからといったらみんな来たんでしょうね。うちの大学は怯えてましたけど(笑)。でね、集まったみんなは勝手なことを言う。でも、こっちも呼んだ胴元なんだから、何にも成果がないじゃ、困る。で、何か一つ合意しろって言ったのね。
ーー この面々に向かって「何か一つ、合意しろ」ってなかなか言えないですよ(笑)
内藤 だって、私はべつに日本政府じゃないから、そんなこと言ったって自由ですよ。タリバンも政権側も、外国軍が撤退するなら、和平の話し合いをするって言ったんです。それを、カルザイ大統領も認めたんです。で、じゃあそれを合意点とするということになった訳ね。
その後カルザイは実際に、自分が辞める2014年までは米軍の駐留延長に反対したんです。同志社での約束通り仁義を守っていた。ところが、次の大統領のガニが米軍の駐留を要請しちゃった。タリバンはいまテロをやっていて酷いから、米軍がいなくてはいけないんだ、ということを世界では言うけど、それは逆で、タリバンからすると外国軍の駐留を継続させないという同志社での会議で確認した約束を政権側が破ったじゃないか、約束を破るんだったら、我々は徹底抗戦するぞっていうことなんです。
雑音無し、他の国の政府を入れない、当事者だけで話し合うその場を、アフガニスタン以外の所で提供する。私は確信がありますけど、それしかないんですよ、和平への道は。その時に、いろんな国がいろんな圧力をかけてはいけない。会議のときには表に出さないし、日本の外務省の人間は一切誰もこない。これはセカンドトラックと言って、政府とは別に我々がやる。だけど実質的な話は、そこでする。日本政府の監視下にあったら、話さないですよね。第一、タリバンは来ないから。
ーー そうだったんですね。私はタリバンと聞いたら、やっぱりどうしても、あの2001年のあの事しか、思い浮かばなくなっているところがあって。この写真を見て、こんな風に笑うんだっていう・・・当たり前のことだけど、そいうことさえもバイアスがかかって見てしまっていました。この方達も普通のただの人間なのに・・・。
内藤 私が伝えたかったのは、こういう姿なんですよ。そういえばこの写真の時にタリバンに、いまはとてもうちの学生を派遣出来る状況じゃないけど、そのうちに学生が関心を持ったら、あなたの国に行くかもしれないけど、その時に爆弾投げるんじゃないぞと言ったら、「ちゃんと客として、おもてなしします」と。
ーー すごい(笑)
内藤 私はアフガンの言葉は出来ませんけど、私が言っているロジックを向こうは聞いているんですよ。こいつは偏見を持って西洋の論理で言っているのか、何なのか、というところを。実際全くそれと違うから、向こうが戸惑ったんです。で、中田先生がいてくれたから、この大学はそうじゃないということをわかってもらえて、この会合が実現したんです。
ーー 当事者だけで話す。政治的な場面に限らず、改めて大事だと感じました。
*
おまけ・・・
『イスラムが効く!』のなかに出てくる内容がじわじわ効いてくる・・・。この効いてくる感覚を書店の店頭でも味わってほしい・・・。ということでミシマ社では「イスラムの処方せん」というアイテムをつくりました。薬袋のような袋から一枚引くと、本書に出てくるありがたい言葉が処方されます。今回の取材の際に、著者の内藤先生にも引いていただきました。
この「イスラムの処方せん」は、今後いくつかの書店さんで展開していく予定です。随時情報をご案内しますので、どうぞお楽しみに!