西村佳哲×ナカムラケンタ 最近〝仕事〟どう?(1)

第4回

西村佳哲×ナカムラケンタ 最近〝仕事〟どう?(1)

2018.10.11更新

 みなさん、最近、仕事どうですか?

 ナカムラケンタさんの『生きるように働く』と、『いま、地方で生きるということ』の著者でもある、西村佳哲さんの『一緒に冒険をする』(弘文堂)の2冊の刊行を記念して、2018年9月18日、代官山 蔦屋書店にてトークイベントが行われました。

 「最近〝仕事〟どう?」をテーマに、それぞれの角度から「仕事」について考え続けてこられたお二人が、自著の話、人が働くことの根っこについて、そして「働き方改革」までを語り合いました。

 そんなお話の一部を、前・後編2日間連続でお届けします。どうぞ!

(構成:須賀紘也・星野友里、写真:池畑索季)

1011-1.jpg左:『生きるように働く』ナカムラケンタ(ミシマ社)/右:『一緒に冒険をする』西村佳哲(弘文堂)

5年かかった1冊目の執筆

西村 ケンタさんは、この『生きるように働く』が1冊目の著書だよね。書きながらどんなことを考えましたか? 

ナカムラ 「読んでくれる人はいるのかな」とか、「僕が本を書く必要あるのかな」と考えていました。

西村 僕は今回書いた『一緒に冒険をする』が10冊目なんだけど、1冊目の本を書いたときは、2冊目を書くつもりはありませんでした。その1冊目も「本なんて書かなくたっていいんだ」っていうのと、「でも書かないと」っていう気持ちの間で揺れながら、5年ぐらいかけて書き上げました。

ナカムラ 僕もやっぱり、「こんなに苦労したし、もうこの本で終わりにしたいな」と思っています(笑)。

西村 ケンタさんはどんな本にしたいと思って書きましたか?

ナカムラ 僕、他人が見た風景とか、そこで感じたこととかを、細かなニュアンスまで含めて完全に知るっていうことがすごく好きなんですよ。まあ全部は無理なんですけど。この人はどんな時間を経て、どういう風景を見て、ここに立っているんだろうって。

 だから、日本仕事百貨の求人の取材でも、クライアントの会社の方には、仕事の内容だけではなくて、いろいろな話をうかがうようにしています。でもそれら全部を言葉にするわけにもいかないので、4000文字ぐらいにまとめています。ただ、『生きるように働く』は10万字くらいあるので、4000字とは話が違っていました。苦労しました・・・。

1011-2.jpgナカムラケンタさん

1011-3.jpg

西村佳哲さん

西村 というのは?

ナカムラ 自分が書いている文章でも、最初から最後まで全部は覚えていないじゃないですか。でも、せめて全体のニュアンスが全部頭に入っている状態で文章を書きたい。

西村 一気に書きたいね。

ナカムラ そうなんですけど、途中で仕事が入ったりすると中断せざるをえなくなりますよね。そうすると、「そもそも何を書きたかったんだっけ?」ってなっちゃう。その繰り返しですよ。5年間。

西村 私もそうでした。

ナカムラ 僕が見聞きしたおもしろいことを、熱量を失わずに再現したかったんです。それがこの本を書いた目的なのかなって思います。

それ自体が現場のような本を書きたい

西村 私は「読み応えのあるアウトドア雑誌」みたいなのは嫌なんですよ。

ナカムラ ん? どういうことでしょう?

西村 だって、さっさとアウトドアに行けばいいじゃん。私たちが何かをしようとか、どこかに行こうとするときに、事前に供給される情報が多すぎていると思う。どこに行ってもさ、みんなが同じところでカメラを取り出すんだよ。旅行に出る前に雑誌なんかで見たのと同じような写真を撮ろうとしているからなんです。でもそんなふうだと、せっかくの旅がただのスタンプハイクになってしまう。

 旅先という、またとない時間のなかで、「うわあ」って思うはずの夕焼けなんかも、よく見ずにただ「記録」している。それってつまんない。その人がこれからリアルに体験すればいいことを、事前にああだこうだ言う必要はないですよね。

ナカムラ たしかに。全部が全部とは思わないですけど、なんにも知らない状態で体験したいこともありますよね。僕の場合は、紀行文やフィクションの舞台となった場所に行って、その本を読むのがすごく好きなんですよ。

西村 なるほどね。たしかに紀行文とかガイドブックの、全部が全部ダメっていうことではない。何が嫌なのかなって考えると、人を変えようとか、本人の経験性から遠ざけるものが嫌なんだと思う。部屋に窓があって、外に美しい風景が広がっていたら、ただそれを見たいじゃん。きれいな窓枠なんかいらないし、窓ガラスに「この外、美しい風景」なんて書いてある必要もない。

ナカムラ そうすると、本というものの役割はどうあるべきなんでしょう?

西村 それ自体が現場のような本を書きたい。たとえばオリンピックでも、テレビで見るのと違って、競技している選手たちのわきには、まだ準備している人がいたり、いろんなことが同時に起きている中で、試合は進んでいると思うんだよね。そういう現場そのものを、本の中につくりたいと思いますね。

本当に欲しいものは「意味」じゃない

西村 神話学者のジョーゼフ・キャンベルさんという人がいます。キャンベルさんは『神話の力』という本の中で、こういうことを言っています。

人々はよく、われわれみんなが探し求めているのは生きることの意味だ、と言いますね。でも、本当に求めているのはそれではないでしょう。人間がほんとうに求めているのは〈いま生きているという経験〉だと、私は思います

 これを最初読んだとき、泣いてしまったんだよね。本当にそうだなって。

1011-5.jpg『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ(早川書房)

ナカムラ 「働く意味」とか「社会的意義」とかじゃなくて。

西村 意味が感じられる仕事をつくる人はすごく大事。少なくなっているから。でも「本当に欲しいのは意味じゃないな」と思う。

ナカムラ あー、たしかに。

西村 2冊目を書き始めた理由の話をすると、1冊目の『自分の仕事をつくる』には、「働くのがいいことだ」みたいなトーンがあったんです。実際、よりよく働きたいみたいな気持ちは自分の中にすごくあるんだけれど、でも「そもそもなんで働くことはいいことなんだっけ」って。そういうことなどを、2冊目を書くことで一度考え直したくなったんです。

ナカムラ なるほど。

西村 それで、2冊目の『自分をいかして生きる』では、テーマが「仕事」から「生きる」に移っていきました。今この瞬間に、僕らはまだ死んでいなくて、ここにいるみんなもそうだけど、生きているってことだけは等価ですよね。

ナカムラ そうですね。

西村 生きているんだから、「生きてるのに、まるで死んでるみたいだ」とか、「なんか自分を殺しているみたい」という感じになってしまう人がいるのは、やっぱり何かがおかしい。『生きるように働く』というタイトルは、「いまを生きているという経験」と同じようなところを照らしていると思って。いいタイトルだな、と思っています!(笑)

ナカムラ ありがとうございます。

(つづく)


プロフィール

西村佳哲(にしむら・よしあき)
1964年 東京生まれ。リビングワールド代表。働き方研究家。つくる・書く・教える、大きく3つの領域で働く。開発的な仕事の相談を受けることが多い。近年は東京と、徳島県神山町で二拠点居住を始め、同町の「まちを将来世代につなぐプロジェクト」に参画。著書に『自分の仕事をつくる』『自分をいかして生きる』(ちくま文庫)など。最新刊は『一緒に冒険をする』(弘文堂)。

ナカムラケンタ(なかむら・けんた)
「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒト代表取締役。1979年、東京都生まれ。明治大学大学院理工学研究科建築学修了。不動産会社に入社し、商業施設などの企画運営に携わる。居心地のいい場所には「人」が欠かせないと気づき、退職後の2008年、"生きるように働く人の求人サイト"「東京仕事百貨」を立ち上げる。2009年、株式会社シゴトヒトを設立。2012年、サイト名を「日本仕事百貨」に変更。ウェブマガジン「greenz.jp」を運営するグリーンズとともに「リトルトーキョー」を2013年7月オープン。いろいろな生き方・働き方に出会える「しごとバー」や誰もが自分の映画館をつくれる「popcorn」などを立ち上げる。著書に『生きるように働く』(ミシマ社)がある。

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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