第16回
新潟の江川さん
2022.10.30更新
先月はじめ、新潟で内科医をされているというサポーターさんから、お手紙をいただきました。在宅診療や老人ホームの嘱託医をする中で、目の前のお年取り一人一人と真摯に向き合うほど、数値化されたエビデンスを元に定められた「感染対策」に戸惑いを感じていること。決められたルールに「例外」を提案することの難しさ。お手紙を読んで、この時代における医療現場の方々のご苦労や葛藤を改めて思い知ると同時に、こんなふうに、心を寄せ、悩みながら、接してくれるお医者さんがいるんだということに、どこか安心する気持ちにもなりました。今月はみなさんの近くにもいるかもしれない、町のお医者さんのお話です。
サポーターNo.907 江川貴子さん(新潟県)
こんにちは。私はミシマ社サポーター歴2年目、新潟市在住の江川貴子と申します。
私のミシマ社との出会いは、とある郊外大型書店でちんまりと開催されていた、ミシマ社フェアでした。そこで面白い本作りをされているなあと興味を持ち、次に違う書店でふうっと惹かれて手に取った本がまたミシマ社で、挟まっていた案内にうむ! と一人頷きサポーターの一員に名乗りをあげた次第です。
私は普段、内科医として働いています。あちこちの診療所で、訪問診療(定期的な往診)や老人ホームのかかりつけ医などをほそぼそ〜っと担当しています。
ヘリに向かって全速力で走ることも、オペ室で不敵に微笑むこともなく、あまり忙しくないように働いているので、たっぷり考える時間があります。そんな中で感じたこと、考えたことを、少しお伝えしたいと思います。
80代〜100代ともなると、お一人お一人の違いがとても大きいです。診察や検査の結果を一般的な基準に当てはめて方針を決めることに、どんどん違和感を覚えはじめます。一般的というのは、若い健康な男性のことだからです(何と偏りのあることか!)。そしてその違和感を吟味した結果、目の前のその方にとって心地よい在り方であること、を基準として方針を決めるようになってきました。最初は恐る恐るでしたが、最近は少しずつ自信を持ち始めました。
そのささやかな自信を与えてくれているものが、二つあります。
一つは先人の知恵の詰まった数々の本です。
老いること、死ぬこと、生きること、病いと共に生きることを、宇宙から眺めるように、顕微鏡を覗くように、大きく鋭く伝えてくれます。本で得たイメージが、一人一人、一回一回の診療から学ぶ視点を深めてくれます。
二つ目は、患者さんの"いいお顔"です。
医療、特に西洋医学は科学的であることが第一義ですが、目の前の一人の方との時間は一期一会で、再現性はなく、関係性によってその方の具合は良くもなり悪くもなります。そのことを率直に認め、客観性は保ちつつも良い関係を築くことで、その方の生活や生き方に沿った方策を共に考えることが出来るようになる、今はそんなところを目指しています。
迷った時は、本が私の相談相手です。あ、あと患者さんのお顔を眺めているうちに迷いが消えることもあります。
私は普段、顔(顔芸?)で仕事をしています。耳の遠い方が多いというのもありますが、あれやこれや質問を繰り出す前に、真剣勝負でここに居る、全てを受け入れる覚悟あり(小さな器の許す限り)、ということをにっこりして無言で伝えます。そこからその方の世界に少しでも近づけるように、その場で思いつく事を質問したり、診察と見せかけて(?)手を握ったりします。寂しさや家族の問題や経済的な問題は医療では解決しきれませんが、その場で空気を楽しい方に変えて、その余韻が出来るだけ長く続くように祈りを込めてその場を去ります。
そんな時、弓道でいう、
最近は、たくさん考えてたくさんインプットしているので(自分調べ)、言葉が溢れ気味です。それで職場の仲間に仕事上の話で思わず熱弁をふるっていたら、それを他の人にも話して欲しいと言われるようになりました。学会発表のように堅苦しいものではなく、伝えたい内容があって聴きたい人がいてその人たちに届けるというのは、僅か20名ほどでしたが、とても充実した経験でした。
さらに、まだまだ伝えたいこと、一緒に考えたいことがたくさんあります。これからはアウトプットの季節かなあと思ったりしています。独りよがりでなく、平らな地平で伝わる態度、言葉を習得していきたいと考えています。
病いも怪我も、完全に避けて生きてはゆけないものです。あってはならないこと、と身構え厳しく遠ざけるより、時にはあり得ることとして柔らかく受け止める方が、生活に笑顔が増えると私は考えます。松村圭一郎氏『くらしのアナキズム』にあった、"人生はプロセスそのものだ。だれも正しさのために生活しているわけではない。"という言葉、周りの人々にすっと差し出したいです。安心して病気になれる社会であればいいと願っています。その一助でありたいです。
ミシマ社の方々や、関わりを持つ方、ミシマ社の産み出した本には、共通して、一辺倒な物の見方に抗い、自分の気持ちの良い、風通しの良い方へ転がっていこうというアンテナや気骨を感じます。その事にとても勇気をもらいます。これからも楽しくて脳に刺激的な活動を期待しています。私もその波動を周囲に広げていきます!
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