第24回
『ちゃぶ台8』刊行記念 榎本俊二×漆原悠一×三島邦弘 鼎談(1)
2022.01.25更新
2021年11月に発刊した『ちゃぶ台8』。
編集長自ら、「あ〜おもしろい! とくもこれだけ面白い原稿ばかりが集まって一誌になったものです」と大絶賛している一冊です。
今回、『ちゃぶ台』で長年連載をしてくださっており、今号の装画を手がけてくださった漫画家の榎本俊二さんと、本誌のデザインを担当してくださっている漆原悠一さんをお迎えして、『ちゃぶ台8』の制作裏話をたっぷりお話しいただきました。
ちゃぶ台8 ミシマ社創業15周年記念号
特集:「さびしい」が、ひっくり返る
発刊:2021年11月30日
"本号では、尊敬してやまない書き手の方々に、さまざまな「さびしい」を載っけてもらい、ひっくり返してもらうことにした。そうしてみると、どんなことが起こるだろうか? 想像するだけでワクワクしてくる。もう、すでに、「さびしい」が自分から去った気さえしてきている。"
特集を「さびしいが、ひっくり返る」にした理由
三島 『ちゃぶ台8』の特集は「さびしいが、ひっくり返る」なんですが、実はこれに決めた前段があったんです。5月に発刊した前号『ちゃぶ台7』のなかに益田ミリさん(作)平澤一平さん(絵)の「ちゃぶ台ディスタンス」という1ページ漫画がありまして、「ソーシャルディスタンス」と言われている時代に、「ちゃぶ台」でできるソーシャルディスタンスを考える話です。そこに、ちゃぶ台をパタンとひっくり返すシーンがあって、脚のところにお皿を置いて、キツネさんたちがごはんを食べる、っていう。ちゃぶ台の新しい使い方を提示していて、結構ハッとしまして。ちゃぶ台って、結構使い方次第で、全然まだまだ。
榎本 ポテンシャルがあると?
三島 はい。「ちゃぶ台」って、「何でものります」っていうことが、ひとつの良さとしてあるとは前から思っていたんですけど、ひっくり返すと違う面が、まだまだ出てくるんだな、っていうのをあらためて思ったんです。
その頃、会う人会う人と「やっぱり、さびしいわ」みたいな話になってたんですよね。うちの親戚にも「人とも会えないし、さびしいし、早く死にたい」という高齢者が出てきたり。ちゃぶ台の執筆陣の方と打ち合わせているときも、「なんかさびしいわ~」みたいな会話が、ちょろっと話の合間に出てきたりしている時期でもありました。
じゃあ、「さびしい」を一回ちゃぶ台の上にのっけて、それぞれの方々にひっくり返してもらおう。と思い、「さびしいが、ひっくり返る」という特集タイトルが生まれました。「さびしい」は「さびしい」のままで本当はいい。いいんですけれども、一回「ひっくり返す」という過程を入れてみたらどうかな、というのが、ひとつの提案であり、特集を決めたときの想いです。
榎本さんの表紙漫画はどう生まれた?
三島 ミシマ社は2021年10月に創業15周年を迎えまして、今回の『ちゃぶ台8』は「ミシマ社創業15周年記念号」と謳っています。榎本さんには毎号連載いただいている漫画「ギャグ漫画家山陰移住ストーリー」に加えて、表紙の装画をお願いしました。依頼の連絡を受けて、どう思われましたか?率直なところ・・・
榎本 今日のイベントに向けて、三島さんに聞きたいことをメモしてたんですけど、この一言です。「なんで?」。榎本に表紙画を依頼するって、みなさんに何があったんですか・・・! しかもすごくタイトな日程でしたよね。
三島 ごめんなさい・・・。15周年記念号の表紙をお願いするなら、榎本さんしかいない! と編集部全員で思っていたんです。思っていたんですが、結果的にものすごくタイトな日程でお願いすることになってしまいましたね・・・。
榎本 なんか今までは、『ちゃぶ台』で連載している漫画はあったんですけれども、陰ながらというかひっそりというか、あまり目立たずに、ということでやっていたんです。スパイスというか、刺身のツマというか、そういう存在で『ちゃぶ台』のなかにいられたらいいな、って思ってたら、今回は前面にフィーチャーされているんで、いいのかな、っていうのと、うれしいな、っていう気持ちがありましたね。
三島 榎本さんから届いた表紙のラフが本当に素晴らしくて。榎本さんは、このタイトなスケジュールのなかで、「これだ!」って感じられて、あの表紙絵になったんですか?
榎本 いきなりツルツルと出たわけじゃなくて、まずは「さびしい」っていう言葉をとにかくどうにかしないといけないな、っていうところからですね。
「さびしいが、ひっくり返る」っていう言葉があるので、本当に文字通り「さびしい」を上からひっくり返せば、「さびしい」が「いしびさ」にひっくり返るわけですよね。それが偶然なにかの意味になればオッケーなんですけれども、ただ単純にひっくり返しただけじゃなんの意味にもならない。じゃあ、どうしようということで、アナグラムにして入れ替えたらいいのかな、とか、いろいろ試しました。
でもやっていくうちに、「さびしい」って、字面だけ見ると、意外にいい言葉が多いんですよね。「侘びさび」の「さび」とか、「いし」は「固い意志がある」とかの「意志」とか、「さびしい」っていう言葉自体が結構悪くない言葉でできているんですよ。せっかく「さび」という言葉があるので、グチャグチャにするよりかは、あんまり入れ替えはせずに「さびしい」のまま使えるネタはないのかな、と思ったんです。
それに気づく前に、「さびしい」という字を、ひらがなではなくアルファベットのローマ字読みで、「SABISHII」にして、その中でなにかできないかな、とか、いろいろ考えてもいましたね。たとえば『ムーたち』みたいな漫画では、そういう言葉遊びをよくしています。
でもそれをしながら、 ハッと気がついたのが、「これは漫画のなかの漫画じゃなくて、表紙絵なんだよな」っていうことでした。パッと見の表紙絵のイラストに、見る人に頭を使わせて、面白みをわかってもらうようなネタは向かないな、って思ったんです。だから、アルファベットに変えて、さらに字を入れ替えるというように、「手続き」が二つあるのはまずいだろうなと。「さびしい」という字は動かさずに、一発で何かわかって、すぐ読めるネタにしないといけないな、どうしようかなぁ、と思ったんですね。
そうしたら、「さびしい」の「し」と、「ミシマ社」の「シ」が重なっていた。じゃあ、「みしましゃ」を「さびしい」の「し」に当てはめれば、「あいうえお作文」みたいな感じでいけるかなと。今回は、全部が頭文字になったわけじゃないんですが「さ・び・し・い」の字を使って、今回の「ミシマ社創業15周年記念号」というのに当てはまるような文章にすればいいんだな、と思ったので、そこからはいろいろと言葉を入れ替えて、ああでもないこうでもない、ってやったんです。
「みなさま このたび みしましゃに うれしいことが」で終わらせて、最後のコマに「15周年」ってすればいいんだな、って思ったところでようやく、ちゃぶ台をひっくり返したところに「15」があるとすれば、見事にオチるじゃん、と。そんな経緯がありました。
三島 いやぁ、本当にすごい。漆原さんは、今のラフをご覧になられたとき、どんな感じでしたか?
漆原 どんなものが榎本さんから送られてくるのか全然想像できなかったんですが、届いたラフを見て、特にこちらからの要望は全くなく、もうただただ最高ですねっていう感じでした。今すごく丁寧に説明してくださったのを聞いて、さらに「あ、そうやったんや...!」ってすごく驚いたというか、そういう過程がないとできない絵だったんだな、ということをすごく実感しましたし、そもそも文字をそのまま抜き出して「ちゃぶ台」の上に置く、という発想がすごい面白いなって思いました。
(『ちゃぶ台』のデザインに迫った後編はこちら)
編集部からのお知らせ
本イベントのアーカイブ動画を期間限定配信中です!
ちゃぶ台編集室~『ちゃぶ台8』刊行記念~ 「ちゃぶ台と私」のアーカイブ動画を2/13(日)までの期間限定で配信中です!
『ちゃぶ台8』刊行イベント第2弾!「時間銀行って何だろう?」
時間銀行とは、お金ではなく「時間」を交換単位として、メンバー間でサービスをやりとりする試み。スペインではコロナ以前から、人びとが地域社会の関係を耕し、危機のときにも機能する信頼のネットワークを作っていました。
こうした取り組み、日本でも可能なのでしょうか?
『ちゃぶ台8』にルポ「人のつながり、命のつながり パンデミック下のスペインより」をご寄稿くださったジャーナリストの工藤律子さんに、日本では馴染みの薄い「時間銀行」についてたっぷり教えていただきます!
利他の新たな形とも言うべき、生活者どうしの支え合いの形を一緒に考えましょう!
次号に向けた対談イベントが、さっそく始まります!
2022年5月刊行予定の『ちゃぶ台9』を参加してくださる皆さまと一緒に練り上げるべく、本誌に収録予定の対談を配信イベントとして開催します!
第1回は、『その農地、私が買います』が話題の作家、高橋久美子さんと、鳥取県智頭町でパンとビールとカフェの3本柱で「タルマーリー」の女将をされている渡邉麻里子さんをお迎えし、対談いただきます。
それぞれの地元で農業や街づくりの問題に積極的に関わりながら、その行動力ゆえに、怒られることも多い(!)というお二人。本音と危機感、動いているからこそ見えてきたものをたっぷりお話いただきます。
第2回は、新刊『共有地をつくる わたしの「実践私有批判」』を2月に刊行する平川克美先生と、書店「Title」店主の辻山良雄 さんをお迎えし、対談いただきます。
平川先生は、経営する会社を畳んで隣町珈琲店主に。辻山さんは、大手書店チェーンを退職して「Title」店主に。小商いをはじめたら、身の回りに「共有地」が広がっていた? 各地で芽吹いている動きの発信源であり最先端であるお2人の、初めての対談です。
☆ふたつのイベントが視聴できる、「ちゃぶ台編集室」通しチケットもございます!