第24回
『ちゃぶ台8』刊行記念 榎本俊二×漆原悠一×三島邦弘 鼎談(2)
2022.01.26更新
2021年11月に発刊した『ちゃぶ台8』。
編集長自ら、「あ〜おもしろい! よくもこれだけ面白い原稿ばかりが集まって一誌になったものです」と大絶賛している一冊です。
今回、『ちゃぶ台』で長年連載をしてくださっており、今号の装画を手がけてくださった漫画家の榎本俊二さんと、本誌のデザインを担当してくださっている漆原悠一さんをお迎えして、『ちゃぶ台8』の制作裏話をたっぷりお話しいただきました。
(前編はこちら)
ちゃぶ台8 ミシマ社創業15周年記念号
特集:「さびしい」が、ひっくり返る
発刊:2021年11月30日
"本号では、尊敬してやまない書き手の方々に、さまざまな「さびしい」を載っけてもらい、ひっくり返してもらうことにした。そうしてみると、どんなことが起こるだろうか? 想像するだけでワクワクしてくる。もう、すでに、「さびしい」が自分から去った気さえしてきている。"
『ちゃぶ台』のデザインはこうやってます
三島 今日は漆原さんに『ちゃぶ台』のデザインのことも伺いたいと思っていたんですけれども、普通の雑誌って、基本フォーマットがあって、フォーマットにそれぞれの読み物を流し込んでいくのが基本的な雑誌のスタイルだと思うんです。でも、漆原さんにデザインをお願いして以降、『ちゃぶ台6』『ちゃぶ台7』『ちゃぶ台8』とここまでに3号発行してきましたが、特集も読み切りも連載も含めて全記事、フォーマットが違うじゃないですか。
榎本 それはちょっと衝撃でしたね。最初見たときに、ん? 著者ごとに違うぞ、気が触れてるんじゃないか、って思いました。本当に、すごいしクレイジーだなって。
三島 榎本さんもそう思っていらっしゃいましたか(笑)。
榎本 それはもう、リニューアルした最初から驚きました。普通に読みやすいから読むんだけれど、ん、待てよ、と。2、3個読んだぐらいにあれ、って見て、あれ、こっちは? あ! 著者ごとに違うじゃん! と。何をやっているんだ。自分で自分の首を絞めるようなことを! って感じでしたね(笑)。これは、漆原さんがやりたくてやったんですか?
漆原 そうですね、僕がやりたくてやったといいますか・・・。
榎本 こういう方法は、お手のものといいますか、よくやる感じのデザインなんですか?
漆原 いや、全然、よくはやらないです。やっぱり大変なんで。
三島 そうですよね。ちなみに、これに関しては全部別のデザインにしてください! って僕がお願いしたわけじゃないですよ。
漆原 でも、一応ルールとしては、二段組みのページとか一段組みのページとか、ちゃんと読み進めていくページにはフォーマットがあって、主にタイトルや執筆者の名前が入る扉ページを自由にやってるイメージなんです。
なんでこういうふうに毎号それぞれ違ったデザインになっていくかっていうと、やっぱり特集号ごとに、取り上げられるテーマも違うし、そもそも『ちゃぶ台』とか、ミシマ社自体がなんでも受け入れられるというか、器に何をのせてもよいような雰囲気を感じていて。カッチリとフォーマットを決めてしまうと、動きが止まってしまうというか、誌面が固くなってしまう気がしているので、もうちょっと有機的に、雑誌なんだけど常に動きがあるようなイメージを自分は持っていて、毎号どういうデザインにしたらいいのかな、って思いながら試行錯誤やっています。
三島 最近気づいたのは、なんかこう、出版社としてこれまでやってきたことって、「畑」というか、ある種、土を耕して「本」という果物や野菜が育つ。そういう「畑」を耕して行くことが「出版社」という場なんだな、ということはすごく思っているんです。だから、『ちゃぶ台』はこのミシマ社の土の中から出てきた雑誌、っていう感じなのかな、と最近すごく思うようになってきましたね。
「ほっこり」と思いきや、実は尖っている雑誌
三島 榎本さんから見て、今回の号はどうでしょうか。
榎本 あの、面白いですよ。今回だけに限らずなんですけれども、『ちゃぶ台』は毎回見た目が攻撃的じゃなくて、手に取りやすい「手づくり感」がある雑誌じゃないですか。でも、中身もそうなのかな、って思って読んでいくと、もちろんイラストだったり絵だったり、結構ほっこりするような、あったかいものが多いのも事実なんですけど、よーく読んでみると、結構尖がっているような内容の文章というか、かなり攻めているような記事が多いんですよね。真剣に読んでいると、かなりグサグサ来る、そんなこと言っていいの!? というような、かなり攻めた方の考えの文章が多くて、今回も結構そういうのがありましたね。でも、それこそが『ちゃぶ台』の面白いところなんだろうな、と思っているんです。
三島 いやぁ、本当にありがとうございます。漆原さん、今回の号はどうでした?
漆原 なんか、毎号全然違う特集タイトルではあるけれども、ゆるやかに繋がっているようなイメージがあって。今回に限らずですけど、『ちゃぶ台』は率直な文章というか、何かで包まれていない、本当に書き手の人たちが思うようなことをそのまま書いてあるんだろうな、っていうのが伝わってくるので、僕自身、すごく影響を受けるところがあります。東京以外で生活されている書き手の方もたくさんいらっしゃるので、物事の見方や考え方もすごく刺激的で、面白かったです。
三島 ありがとうございます。本当に毎号、「最高の雑誌ができた!」と思っていて。今回もなんか、すんごいのができてしまった! って思いました。前号の『ちゃぶ台7』のときも「もう、これ以上の雑誌は無理だろうな」と思ったんですけれども、今回はまた全然違う「最高」なんです。「最高に面白いです!」というのは、前号を超えて「最高」なのではなく、一号一号が個別に「最高」という状態。「前号超え」ということではなく、これまで毎号、新鮮な喜びがあるんですよ。
次号はどこに向かっていく?
榎本 今後はどこに向かっていきたいんですか? それは秘密なんですか?(笑)
三島 今後、どこに向かっていったらいいですかね。半年後に『ちゃぶ台』を出すということは決まっているんですけれども、そこから先、『ちゃぶ台』がどこに向かっていくか、ミシマ社がどう向かっていくか、っていうのは謎です。
榎本 特集テーマも、5号ぐらいまではカチッと「宗教×政治」とか「発酵×経済」とか決まっていたのが、どんどんフワフワしてきましたよね。
三島 (笑)はい。6号からの特集は「非常時代を明るく生きる」「ふれる、もれる、すくわれる」「『さびしい』が、ひっくり返る」と来ていて、どこかフワッとしてきていますね。でも、今の感じだと、次号はさらにフワッとしそうな感じなんです。
榎本 でも、そういうテーマが現状だったり世相だったりを反映するところもありますもんね。こっちがいくら「こうしたい」って思っても、世の中がこうなっちゃったらそれをテーマにせざるをえなくなるっていう可能性もありますよね。
三島 なんとなく、次の号の特集テーマとしてうっすらと思いはじめているのは、「風がとおる」「つまりが流れる」みたいなことなんです。ちょっとこの一週間くらい、そんなことを思っていたりもしたんですけれども。
榎本 フワフワしていますね(笑)。三島さん、だんだんちょっと、長嶋茂雄みたいになってきましたね。擬音でしゃべるようになってきた。周りが解読するのが大変ですよね。まあ、楽しくもありますけどね。そのうち「そこをもうちょっとバッというか、ビキッっというか、ちょっとクニュッとして」、みたいなところに行ってしまうかもしれないですよね。
三島 ちょっとそういうところあるな、と、僕自身思いました(笑)。でも、しばらくはもうちょっとフワッと路線が続くかもしれないです。
(終)
本記事は、2021年12月時点の鼎談の様子です。『ちゃぶ台』次号、特集はいかに!?
編集部からのお知らせ
本イベントのアーカイブ動画を期間限定配信中です!
ちゃぶ台編集室~『ちゃぶ台8』刊行記念~ 「ちゃぶ台と私」のアーカイブ動画を2/13(日)までの期間限定で配信中です!
『ちゃぶ台8』刊行イベント第2弾!「時間銀行って何だろう?」
時間銀行とは、お金ではなく「時間」を交換単位として、メンバー間でサービスをやりとりする試み。スペインではコロナ以前から、人びとが地域社会の関係を耕し、危機のときにも機能する信頼のネットワークを作っていました。
こうした取り組み、日本でも可能なのでしょうか?
『ちゃぶ台8』にルポ「人のつながり、命のつながり パンデミック下のスペインより」をご寄稿くださったジャーナリストの工藤律子さんに、日本では馴染みの薄い「時間銀行」についてたっぷり教えていただきます!
利他の新たな形とも言うべき、生活者どうしの支え合いの形を一緒に考えましょう!
次号に向けた対談イベントが、さっそく始まります!
2022年5月刊行予定の『ちゃぶ台9』を参加してくださる皆さまと一緒に練り上げるべく、本誌に収録予定の対談を配信イベントとして開催します!
第1回は、『その農地、私が買います』が話題の作家、高橋久美子さんと、鳥取県智頭町でパンとビールとカフェの3本柱で「タルマーリー」の女将をされている渡邉麻里子さんをお迎えし、対談いただきます。
それぞれの地元で農業や街づくりの問題に積極的に関わりながら、その行動力ゆえに、怒られることも多い(!)というお二人。本音と危機感、動いているからこそ見えてきたものをたっぷりお話いただきます。
第2回は、新刊『共有地をつくる わたしの「実践私有批判」』を2月に刊行する平川克美先生と、書店「Title」店主の辻山良雄 さんをお迎えし、対談いただきます。
平川先生は、経営する会社を畳んで隣町珈琲店主に。辻山さんは、大手書店チェーンを退職して「Title」店主に。小商いをはじめたら、身の回りに「共有地」が広がっていた? 各地で芽吹いている動きの発信源であり最先端であるお2人の、初めての対談です。
☆ふたつのイベントが視聴できる、「ちゃぶ台編集室」通しチケットもございます!