第5回
対談 坂本美雨×若林理砂 カラダが整うとココロも整う(1)
2018.10.29更新
長かった夏も終わり、急に涼しい日が増えてきたこの頃。電車に乗っているとあちこちから鼻をすする音が聞こえてきます。
先日、青山ブックセンターにて、『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』の著者である臨床家・鍼灸師の若林理砂さんと、ミュージシャンの坂本美雨さんによるトークショーが開催されました。普段は治療家と患者さんという間柄で、治療をしながらたくさんのお話しをされているというお二人。
息のピッタリ合った対話は、カラダとココロの関係と治癒のお話から、健康にまつわる"呪い"のお話まで、納得の連続。会場後方の席に座っていたミシマ社社員一同、うんうん、とうなずきっぱなしでした。
合言葉は「細かいことは気にするな!」「とにかく寝ろ!!」。読むだけで元気になれる対談、前後編でお送りします。
(構成:須賀紘也・星野友里、写真:池畑索季)
『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話」若林理砂(ミシマ社)
人間は休ませると、すり減った分が戻る
若林 「日常生活の過ごし方を変えよう、早く寝よう」と言われると、「個人の尊厳を踏みにじられた、全否定された」って怒る人が多いんです。
坂本 「オレ、仕事こんなにがんばってるのに」って。
若林 そうなるでしょ。夜遅くまで働くことが大事だと思い込んでいる。「お前寝ろや」って言いたくなる(笑)。朝早く起きて仕事したっていいのに。
坂本 そのほうがむしろ効率がよくなるということも、知識としては知ってると思うんですけどね。その「オレがんばってる」が、大事な生きる糧になっているというのはわかるから、そこを強く否定することもできなくて。
若林 生きるよすがにするものが、「夜遅くまで起きている」なんてことじゃなくていいって、気がつくといいんですけどね。
坂本 命を削る前に。
若林 そう。休まず働くのはいいことじゃない。機械だって、ときどき止めてメンテナンスをして、すり減った部品があったら取り換えたりする。でも、人間は部品交換ができないんです。そのかわり、ちゃんと自己治癒力が備わっているから、休ませるとすり減った分が戻るんだよね。遅くまで働いていると、メンタルだって安定しなくなっちゃいます。
坂本 そう思います。心と体は切っても切り離せないものだけど、別々に動かしている人が多いと思う。
若林 今ものすごく多いし、そのことがうつ病などのメンタルの不調の原因になっている。メンタルを病みやすいタイプの人は、簡単に「ちゃんと寝ること食べること」を手放してしまう傾向にある。命に直結することなのに「それよりも大事なものあるから」と手放す。体を動かさなくても生きていけるようになってきちゃったからだよね。
坂本 そういうことか。
若林 ボディーが動かなくても、なんでもできるようになってきている。足を動かさなくても、何かに乗ってどこかに出かけることもできる。だから体を整えていくことを簡単に手放せちゃう。でも体は魂の乗り物で、体がなくなると、魂は幽霊だからね。
坂本 幽霊のような状態で生きている人が多いですよね。
坂本美雨さん
最大限譲歩して12時までに寝る
若林 『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』、通称『ぜっこれ』(笑)。この本は、まず寝ることから整えて、その次に食べることを整えて、最後に体を動かすところまでもっていこう、という本です。なんでこの順番になっているかというと、やっぱりどうしても遅くに寝ちゃうんだよね、みんな。
坂本 そうなんだ。
若林 いろいろ後ろ倒しになっちゃって、結局寝る時間が遅くなる。寝る時間さえきちんと決めれば、ドミノ倒し的に生活軸が変わっていくんです。
坂本 よいドミノ倒し。・・・ドミノ起こし?
若林 (笑)。日本人は平均5、6時間くらいしか寝ていなくて、世界平均は7時間だから、1、2時間くらい隔たりがある。1、2時間の寝不足が、1週間なり2週間続くと、じわじわ認知機能が下がって、常に完徹した次の日と同じくらいの集中力しか持たずに生きなきゃならなくなる。
坂本 うわあ。
若林 だけど、睡眠をちゃんと取ることによって、認知機能はもとに戻ってきます。ただし、継続的にきちんと寝ないと戻らないんですよ。整ってくるまで、1カ月から3カ月くらいかかる人もいます。元通りの睡眠周期に戻すのは、そう簡単ではないんだけど、諦めないでちゃんと寝る時間を決めることがすごく大事です。
坂本 何時までに寝ればいいでしょうか?
若林 最大限譲歩して12時。会社や学校に通うとなると、12時に寝ることができないと、睡眠時間を7時間確保するのが難しくなるよね。
坂本 だいたい7時には起きなきゃいけないですもんね。
若林 あと、風邪をひきそうになっている人に「早く寝て」って言ったら、いつもより30分早めて11時半に寝たらしいんだけど、そうじゃないからね。風邪ひきそうなら、10時くらいには寝てほしい。
若林理砂さん
自分が放つ言葉が物理的に人に影響している
若林 メンタル的に「なんか変だな」って思うときには、ボディーの問題として捉え直すほうがいいですね。「あれ、なんか落ち着かないな」って思ったら、「これは風邪をひくかもな」と考えたほうがいいです。
体調不良からくる精神的な不調は多い。だから、くだらないことにムキになって、ガーッて言っちゃったりとか、ちょっとしたことが刺さっちゃうときには、体調に還元してしまうほうが建設的です。
坂本 みんなストレスを感じているのに、それを無視して「弱気じゃいかん」みたいに自分を責めてしまいがちですね。体って、もっとすべてのことに反応して生きている。体は、例えば先生が今話す言葉に、考えや意味だけじゃなくて、物理的にも反応している。その反応をもっと見つめながら生きたほうがいいんじゃないかなって。
若林 そう思うなあ。そうすると相手に投げる言葉も変わるよね。
坂本 「自分が放つ言葉が物理的に人に影響してるんだ」って意識し合えたらいいよね。
若林 同じ言葉でも、声色や語調によってだいぶ変わりますよね。「なに言ってるのっ」って感情的に言われるのと、「なに言ってるの?」って優しく言われるのとでは、同じ言葉でも全然違う。意味も違ってくるけど、それ以上に体が受ける音の振動が違う。
でも、受け手のメンタルが沈んでいるときだと、優しく言われても刺さっちゃうことがある。人の言葉のウラばっかりを読むようになったら、だいたい疲労していますから、早く寝たほうがいいです。おいしいものを食べて、寝て、次の日の朝にもう一回考えたときに「なんであんなに刺さったんだろうな」っていうことも、けっこうありますからね。
プロフィール
若林理砂(わかばやし・りさ)
臨床家・鍼灸師。1976年生まれ。高校卒業後に鍼灸免許を取得。早稲田大学第二文学部卒(思想宗教系専修)。2004年に東京・目黒にアシル治療室を開院。現在、新規患者の受け付けができないほどの人気治療室となっている。古武術を学び、現在の趣味はカポエイラ。著書に『東洋医学式 女性のカラダとココロの「不調」を治す44の養生訓』(原書房)、『安心のペットボトル温灸』『大人の女におやつはいらない』(夜間飛行)、『その痛みやめまい、お天気のせいです――自分で自律神経を整えて治すカンタン解消法』 (廣済堂出版健康人新書)、『決定版 からだの養生12カ月――食とからだの養生訓』(晶文社)など多数。
坂本美雨(さかもと・みう)
ミュージシャン。東京/NY育ち。
1997年、Ryuichi Sakamoto feat. Sister M名義でデビュー。 音楽活動に加え、ナレーションや執筆も行う。
JFN系全国ネットのラジオ「ディアフレンズ」のパーソナリティを担当。大の愛猫家で動物愛護活動にも力を注ぐ。児童虐待防止に取り組む「こどものいのちはこどものもの」発起人。2015年に娘を出産。
Twitter:@miusakamoto
Instagram : @miu_sakamoto
http://www.miuskmt.com/