第5回
対談 坂本美雨×若林理砂 カラダが整うとココロも整う(2)
2018.10.30更新
長かった夏も終わり、急に涼しい日が増えてきたこの頃。電車に乗っているとあちこちから鼻をすする音が聞こえてきます。
先日、青山ブックセンターにて、『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』の著者である臨床家・鍼灸師の若林理砂さんと、ミュージシャンの坂本美雨さんによるトークショーが開催されました。普段は治療家と患者さんという間柄で、治療をしながらたくさんのお話しをされているというお二人。
息のピッタリ合った対話は、カラダとココロの関係と治癒のお話から、健康にまつわる"呪い"のお話まで、納得の連続。会場後方の席に座っていたミシマ社社員一同、うんうん、とうなずきっぱなしでした。
合言葉は「細かいことは気にするな!」「とにかく寝ろ!!」。読むだけで元気になれる対談、前後編でお送りします。
■前編の記事はこちら
(構成:須賀紘也・星野友里、写真:池畑索季)
『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話」若林理砂(ミシマ社)
生きてさえいれば傷は治る
坂本 みんな、体の治癒力をあんまり信じていないと思う。帝王切開で出産したときに、自分の体の治癒力を実感しました。切腹してるのに、5日で治るってお医者さんに言われて。切腹した次の日にもうトイレは自分で行ってね、って歩かされるんてすよ!(笑)でも次の日からご飯も食べられたし、ちゃんと消化してくれてるんだと思うと、自分の体が本当に愛おしくって。自分はがんばってないのに、体は治っていく。こんな力がそなわっているんだなと。
若林 体ってすごいよね。「生きてさえいればなんとかなるから」ってよく自分のツイッターでつぶやくんだけど、生きてりゃ治りますから。「心に負った傷は一生治らない」って言うけど、これも生きてればちゃんと治るからさ。
私は昔の彼氏からDVの被害を受けていたんですね。けっこうひどい目に遭っていたんですけど、今は元気です。克服するのに時間はかかりますけど、治りますよ。体調が良くなってくれば、そういう過去のことと向かい合う力もついてくるし。無かったことにしたり、乗り越えたりはできないですけど、でもちゃんと客観性を持って、ただ単に「そういうこともあったね」って思えるようになります。
坂本 例えば子どものとき、本当につらいことがあったら、その記憶を封じ込めますよね。大人になってから、そういうトラウマを何とかしたいと思ったときに、カウンセリングでもなんでも、なにをするかっていうと結局それを見つめることですよね。
加害者に対して、「あの時ああだった」って言うことが解決になるわけではなくて、「あの時傷ついたな」って、その時の自分を見つめられるようになればいい。「ああ、見つめるだけで人は救われるんだ」と思う。
若林 そうそう。現状を見ることなんですよね。しっかりそれを見るってなったときに、やっぱりけっこう体力が必要なのよ。体力があると、裏側に虫がいそうな岩をどけて、「川虫がいるぞー、ぞわー」って感じで見れる(笑)。
でも岩をどけるのにも腕力がいるよね。つまり、あったことを受け止めるだけの体力が必要なんです。だからなんかしらのキズを持っている人は、絶対に養生して寝て食べてをしっかりやっておいたほうがいいですよ。体を整えるっていうのは、自分に対しての許容範囲を広げるのにも役立つと思います。
呪いにご用心
若林 「何重にも靴下履け」とか、「市販のシャンプーは子宮にたまる」とか、よく言われてますよね。たまらないんだけどな(笑)。
坂本 日頃いろいろ気をつけるきっかけにはなるんだけど、なんかそれで人を縛っているんじゃないかと思う。呪いみたいに思えます。でも、それが実際に効く人もいるんです。
若林 そうなんだよ。だから信仰っていうのは難しいです。毒でもあるし、薬でもある。だからこそ、やっぱりおまじないとかを、病気を治すのに使うっていうのはおすすめしないんです。それで治ると思うんだけど、逆の呪いにとらわれることもある。例えば「靴下を脱いだら元に戻っちゃうんじゃないか」という恐怖によって、重ね履きをやめられなくなってしまう人もいる。だから依存って怖い。
坂本 それを使わなくても手っ取り早い方法が・・・
若林 「早く寝よう」という話だよね(笑)。「あれはやらない」「これも禁止」とか、無駄な手数は自信のなさの表れなんだと思う。手間をかけた分、なんかいいことがある気がしてしまう。
「青い鳥は裏庭にいる」って言いますよね。「寝て食って動いてれば健康になる」っていうのはそういう話で。だけどみんな魔法があるような気がして、遠くまで青い鳥を探しに行っちゃうんだよ。その労力はもったいないんですよね。ダイエットにしても、トースト抜きとか、いろいろやりますよね。
坂本:やっぱりしちゃいますけどね(笑)
若林:するよね。でも運動したほうがいいよ(笑)。
御託を並べるヤツほど野菜を食べない
若林 運動の話をすると、私はラジオ体操を薦めています。ラジオ体操をしっかりやって、徐々に動けるようになってきたら、なんか楽しい運動をしたほうがいい、というふうに提唱しています。ラジオ体操に飽きてきたら、体が動いてきた証拠でもあるので、次はなんか楽しそうな運動を、お気楽にできそうな範囲でやればいいと思う。意外とそのくらいで健康になります。体調が良くなれば、人にやさしくもなるしね。
坂本 そうなんですよ。余裕が生まれますよね。
若林 山手線が止まって駅員さんに怒鳴っている人を見ると、たぶんご飯を食べてないんだろうなって思います。「衣食足りて礼節を知る」じゃないけど、それに近いよね。そういうのを、地味ーに、いろんな本を書いて伝え続けているんですよ。
坂本 ベーシックなことを、これだけのいろんな切り口で書いていてすごいと思う。
若林 バリエーションが増えてきました。『養生サバイバル』という本では、お金がない人向けに、コンビニでの買い物だけで完結するような食事を紹介しています。カット野菜でもかまわないのよ。ビタミンとかは減っているかもしれないけど、体に害になることはないから。よく「カット野菜は漂白されているから体に悪い」とか言われたりするんだけど、食わないほうが体に悪い。単純な話よ、ほんと。御託を並べるヤツほど野菜を食わないからね(笑)。
『養生サバイバル 温かい食事だけが人生を変えることができる』若林理砂(KADOKAWA)
坂本 うーん、それほっとするわぁ。
若林 ね。食べることをおろそかにするわけじゃないからさ。ちゃんとそれで食べてるんだから。
坂本 しかし、「サバイバル」しなきゃいけない世の中だなあ。
若林 いろんな情報がいっぱいあるからね。でもね、さっきの「市販のシャンプー」もそうなんだけど、「体に悪い」って言われているものでも、調べてみると、あんまり怖がらなくて大丈夫なことが多いからね。安心して「ちゃんと寝て食べて動きましょう」っていうのが『ぜっこれ』のメッセージですね。
(終)
いかがでしたでしょうか。『ぜっこれ』もご対談でのお話も、若林さんのアドバイスには即効性があり、すぐに実践に結びついて、自分の変化を感じられます。まだ読まれていない方は、ぜひお手にとってみてください。
プロフィール
若林理砂(わかばやし・りさ)
臨床家・鍼灸師。1976年生まれ。高校卒業後に鍼灸免許を取得。早稲田大学第二文学部卒(思想宗教系専修)。2004年に東京・目黒にアシル治療室を開院。現在、新規患者の受け付けができないほどの人気治療室となっている。古武術を学び、現在の趣味はカポエイラ。著書に『東洋医学式 女性のカラダとココロの「不調」を治す44の養生訓』(原書房)、『安心のペットボトル温灸』『大人の女におやつはいらない』(夜間飛行)、『その痛みやめまい、お天気のせいです――自分で自律神経を整えて治すカンタン解消法』 (廣済堂出版健康人新書)、『決定版 からだの養生12カ月――食とからだの養生訓』(晶文社)など多数。
坂本美雨(さかもと・みう)
ミュージシャン。東京/NY育ち。
1997年、Ryuichi Sakamoto feat. Sister M名義でデビュー。 音楽活動に加え、ナレーションや執筆も行う。
JFN系全国ネットのラジオ「ディアフレンズ」のパーソナリティを担当。大の愛猫家で動物愛護活動にも力を注ぐ。児童虐待防止に取り組む「こどものいのちはこどものもの」発起人。2015年に娘を出産。
Twitter:@miusakamoto
Instagram : @miu_sakamoto
http://www.miuskmt.com/