第7回
仲野徹×若林理砂 "ほどほどの健康"でご機嫌に暮らそう(1)
2019.03.06更新
健康情報が氾濫している現代、「○○だけすれば長生きできる」「××しなければ病気にならない」といった言説が次から次へと登場しています。そんな中で、「(あまり)病気をしない」(仲野徹先生)、「いい塩梅をめざす」(若林理砂先生)、と"ほどほどの健康"をかかげる本を執筆されたお二人。とはいえ、西洋医学の最先端の研究を専門とする仲野先生、東洋医学の臨床スペシャリストの若林先生、「健康」や「医学」へのアプローチはまったく違います。
果たして、それぞれが考える「健康」に共通項は見出されるのか? 仲野先生の歯に衣着せぬツッコミからスタートしたこの対談、会場の下北沢B&Bは、爆笑に包まれました。パワフル・ポジティブなお二人のお話、どうぞお楽しみください。
(構成:須賀紘也、星野友里、写真:岡田森)
アンチエイジングが嫌いですよね
仲野 若林先生、よろしくお願いします。初対面ではありますが、本日は失礼な質問からはじめようと思います。
若林 はい(笑)
仲野 鍼灸には効果があるというのは認めます。でも、鍼灸って元になる理屈は無茶苦茶ですよね?
若林 そうですよ。
会場 (笑)
仲野 鍼灸はそういうところが不思議でたまらんのですわ。ミシマ社から「対談をやってくれないか」と連絡が来たとき、最初は断ろうと思ったんですよ。
若林 お医者さんは、鍼灸師の人と話したがらないですから。
仲野 そうでしょうね、わかります。でも、これ(『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』)を読んだら、むっちゃおもろかったんで、引き受けることに。
『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』若林理砂(ミシマ社)
若林 ありがとうございます(笑)。
仲野 「この人、気が合うわ」と思ったんです。すごくおんなじ匂いがするんですよ。3ページくらい読んだところでおんなじ部類の人やと思いました。まずアンチエイジングが嫌いですよね。
若林 はい。
仲野 僕が『こわいもの知らずの病理学講義』を書いたとき、編集者に「アンチエイジングの悪口を書いてくれ」と言われました。でもね、それは書きにくいんです。アンチエイジングをやっている人が知り合いに結構いるから。でも、無理があるんですよね、アンチエイジングって。考えたらあたりまえですけど、どこかでガクッとくる。
若林 必ずきます。だって歳はとるんですから。絶対身体にガタがきますよね。
玄米を貼りたくなる気持ち
仲野 このまえ肩が凝りまして、家内が、首とか肩に貼る磁気治療のテープを買ってきたんですよ。「こんなもん効くわけないやろ、もったいない」とか文句を言いながら貼ってみたら、あっと言う間に肩凝りが取れて、「・・・効くやんか」とびっくりしました。
若林 鍼やお灸をしなくても、皮膚の表面に圧刺激を加えるだけで、ある程度は効果を見込めます。指圧でも効くのと同じです。
仲野 若林先生は、ペットボトル温灸の本も出されていますよね。ペットボトル温灸が効くのも、同じ理由ですか?
若林 同じですね。テープも鍼もペットボトル温灸も米粒も同じ。
仲野 そういえば、首に米粒を貼るだけで凝りが取れるとも書いてはりましたね。
若林 いけるんですよ! だから鍼がない場合は、「米でもなんでも貼れば効くよ」と言うんですよね。「米は玄米がいいですか?」と聞かれても、「別になんでもいいです」と答える。
仲野 それね、玄米貼りたくなる気持ちわかりますよ。「特殊なことせえへんと効かない」と思いこんでる人が結構多い。
若林 そうなんですよ。別になんでもいいんですけど。
仲野 「なんでもいい、なんでもいい」って若林先生、鍼灸師の敵とか呼ばれることはないですか?
若林 敵じゃないですけどねえ(笑)。すごくラディカルだとは言われます。私はどこの流派にも属さないでやってきているので、わりと言いたい放題なんですよ。
仲野 よく効く鍼灸師と効かない鍼灸師ではなにがちがうんです?
若林 身体の表面にどんな反応が出ているのかを、上手に触知できる人は、やっぱりよく効かせられますね。
仲野 あー、そういう非科学的なところがやっぱり嫌やなぁ。せっかく、ええところまでいってたのに(笑)。
若林 「ここがおかしいな」とか、あとは筋肉の緊張状態とかを、触ることで感じ取れる人と、そうでない人がいるんです。だから上手かどうかは、指先の感覚によると思います。
昔の鍼は、釘のように太かった
仲野 鍼灸は日本にいつ頃伝わったんですか?
若林 奈良時代かな? 伝わった当初は、お灸のほうが重要でした。
仲野 お灸ってお線香みたいで、なんとなく宗教的ですよね。なんか関係あるんでしょうか?
若林 やっぱり宗教的なことも関係したと思いますよ。お灸に使うヨモギは、魔除けになると考えられていましたから。
仲野 逆に鍼は消毒が大変やったろうしね。当時は火で炙るくらいしかできなかったはずやから。
若林 あと、当時の技術だと、太い鍼しかつくれなかったんで。
仲野 それは嫌やなぁ。釘みたいになってしまいますやん。
若林 本当に釘みたいでした。外科手術みたいなものだったんですよ。だからあんまり使われなかった。金属の加工技術が向上して、今の鍼の形に近くなったのは江戸時代です。当時は金や銀、特に金は粘性展性に富むので、細いのが作れました。
仲野 あっ、昔は金やったんですか。今は?
若林 今はステンレスがほとんどで、ディスポ(ディスポーザブル:使い捨て)です。でも、金のディスポもあるんですけどね。ステンレスだと1本50円しないところ、金は1本500円ですからね。もったいないなあと思いますけど。
仲野 「金でやってくれ」という人はいますか?
若林 私は使わないので言われませんが、「金がいいなあ、柔らかいなあ」という人も多いという話を聞きます。
仲野 それはやっぱり「玄米」の人と同じような考えですよね。
若林 注射針を金で作ったからと言って痛みが少ないかどうかと言われると・・・
仲野 まあ一緒でしょ。でもなんとなく金を使っとけばええことがありそうな気がする。「あああ、金が刺さっとる」って(笑)。顔に金の鍼をさしまくって写真撮る人とかおるやろね。
若林 インスタ映えしそう。
会場 (笑)
(つづく)
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