第7回
仲野徹×若林理砂 "ほどほどの健康"でご機嫌に暮らそう(2)
2019.03.07更新
健康情報が氾濫している現代、「○○だけすれば長生きできる」「××しなければ病気にならない」といった言説が次から次へと登場しています。そんな中で、「(あまり)病気をしない」(仲野徹先生)、「いい塩梅をめざす」(若林理砂先生)、と"ほどほどの健康"をかかげる本を執筆されたお二人。とはいえ、西洋医学の最先端の研究を専門とする仲野先生、東洋医学の臨床スペシャリストの若林先生、「健康」や「医学」へのアプローチはまったく違います。
果たして、それぞれが考える「健康」に共通項は見出されるのか? 仲野先生の歯に衣着せぬツッコミからスタートしたこの対談、会場の下北沢B&Bは、爆笑に包まれました。パワフル・ポジティブなお二人のお話、どうぞお楽しみください。
(構成:須賀紘也、星野友里、写真:岡田森)
■前編の記事はこちら
経絡ってないよね。医学的に。
仲野 中国4000年の歴史で、あ、ここは効くということでツボを考え出して、経絡があるというふうに導いたのはまあよしとしましょう。
※ 「経絡」・・・東洋医学において、気や血などの通り道と考えられているもの。体内の不調は、経絡を通じて経穴(ツボ)に伝えられる。反対に鍼や灸によってこの経穴に刺激を与えて病気をコントロールすることができるとされる。――(出典)ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「経絡」
若林 よしとしましょう。ありがとうございます(笑)
仲野 でも経絡ってないよね。医学的に。というか、解剖学的に。
若林 あれは医学的にはないんですよ。解剖しても見えないから、全身を結ぶラインがあるわけではない。というので、最近は経絡自体というのを、筋膜の表面にあるなんらかの硬結部位なんじゃないかと捉えていますね。
仲野 それがね、ぼくらやっぱりはじめに基礎医学を学んで「こうこうこうこうなってるから、こういう治療をします」という論理体系でいくわけですよ。それが「効くからいいじゃん」的に考えられると、ちょっと困る。むしろ、無理に経絡なんかを仮定する必要があるのかという疑問がわいてくるんですわ。そもそも経絡ってどういう経緯でできたものなんですか?
若林 経絡の起源は、気の流れとかは関係なく、「この辺りのライン上にツボが出やすいよ」っていうのから始まったみたいなんですよ。そこからだんだん、気の流れとかを絡めて考えるようになっていった。
仲野 最初は「このへん押したらきもちいいな」ぐらいだったんですね。僕はそのほうが腑に落ちますね。今の生命科学でいうと、たぶん、経絡なんかではなくて、高次脳機能で説明できる、というか、すべきような気がします。でも理屈がわかったところで、意味ないというたら意味ないですもんね。効きゃええんですから。
若林 そうなんです、結果的に効いているからいいだろうとしか言いようがないものなんですよね。
ツボにまつわるエトセトラ
仲野 温泉の脱衣所とかに、腎臓だの肝臓だの書いてあるいわゆる「足ツボ」が置いてあるじゃないですか? あれは経絡と関係ありますか?
若林 ああ、あれは鍼灸だと思われがちですが違うんです。あれは「リフレクソロジー」というもので、鍼灸とは全然別物です。リフレクソロジーはあるスウェーデン人が。
仲野 ちゃうんですか。
若林 あれね、作ったのは台湾に行ったスウェーデン人の宣教師なんですよ。謎でしょ?
仲野 「足ツボ」は好きな人多いですよね。
若林 多いです。私も「ここは腎臓ですよね?」とかよく言われます。そういうときには、「それは東洋医学じゃないからわかんないです」って言います。
仲野 またひとつ疑問が解けました。今日はむっちゃかしこなってきたなあ(笑)。逆子がなおるツボがあると聞いたのですが。
若林 6〜7割くらい治るというエビデンスを取っている人もいますよ。
仲野 効くんですねえ。あれはツボを刺激している間に逆子が動くんですよね? どういう仕組みで効くんです?
若林 そうそう、エコーで見るとわかります。どういう仕組みで効くのか、不思議ですよね。だって足の小指の先端にお灸のせるだけなんですよ?
仲野 足の小指の先端? それは鍼ではなくお灸なんですか?
若林 はい。至陰(しいん)のツボといいます。ここにお灸をすると、胎動が激しくなるんですよ。お灸で効くツボと、鍼で効くツボがあって、使い分けてます。
仲野 そうなんですか。またかしこなった(笑)。
病気をしない劇的な方法なんてない
仲野 この本でもうひとつ、いいことが書いてあるなぁと思ったのは、「若いうちから健康に気をつけなあかん」ということ。
若林 はい。
仲野 120歳まで生きようと思ったら、特にね。
若林 相当若いうちからじゃないと。
仲野 だいたい、気をつけ始めるのは、60歳ぐらいですよ。これでは手遅れなんです。本気で長生きしようと思ったら、生まれたときからアンチエイジングを・・・
会場 (笑)
仲野 いや、もうこうなったらアンチエイジングとはちゃいますけど(笑)。
若林 子どものうちからでも、よい生活習慣をつけようということですよね。仲野先生の『(あまり)病気をしない暮らし』も、同じことを書いてるなと思った。
仲野 この本は『(あまり)病気をしないくらし』というタイトルですけど、その具体的な方法についてはあんまり書いてないんですよね。だからインターネットのレビューに、「病気にならない方法が書いてない」みたいなことが書いてある。わかってる、っちゅうねん。
若林 でも「病気をしないくらし」というのは、結局「寝る」「食べる」「動くこと」に、しっかり気をつけることですよね。
仲野 そうなんですよ。たとえば国立がん研究センターがガンを防ぐために呼びかけているのは、「太りすぎず痩せすぎない」とか、「バランスを取った食事をする」、そのくらいのことなんです。つまり、病気をしない劇的な方法なんてないんです。
若林さんのこの本で、早寝早起きとラジオ体操をすすめてるんですけど、私もまさにそれやってるんです。研究したり経験したりしてきたことは全然違ってるのに、たどり着くところは同じなんやとびっくりしました。不思議みたいな気がしますけど、まっとうに考えたらそうなるんかもしれんですね。
若林 本当にそうですね。
(終)
・・・いかがでしたでしょうか。日常的に、西洋医学も東洋医学も、さらにそれ以外のさまざまな健康法まで身近にあって、多すぎる情報に惑わされがちな方も多いと思います。そんななかで、お二人のご著書は、シンプルに大切なことを教えてくれますので、ぜひこの機会にお手にとってみてください。
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