第34回
小川彩佳さんインタビュー「わたしと日本舞踊」
2020.01.07更新
こんにちは。ミシマ社です。
昨年12月の特集記事で、現在「日本舞踊」を特集した冊子を製作中とお伝えしました。年が明けてこちらの冊子が完成いたしましたので、本日は冊子内でご登場いただいた、TBSのアナウンサー・小川彩佳さんへのインタビューをミシマガジンでも掲載いたします。こちらの冊子は、京都市内の市の関連施設や、ミシマ社の本を置いてくださっている書店さんなどにお配りする予定です。
ほしい!という方はぜひ以下に問い合わせてみてください。
お問合せ先:京都市文化市民局 文化芸術都市推進室 文化芸術企画課(担当:三原、神崎)
TEL:075-366-0033 / FAX:075-213-3181
それでは、インタビューをどうぞ!
TBS系『NEWS23』のメインキャスターとして活躍する小川彩佳さん。日本舞踊の経験も長く、「名取」の資格もお持っていらっしゃいます。そんな小川アナに日本舞踊との出会い、魅力について伺いました。(編集部)
祖母に会いたくて
私が日本舞踊を始めたのは8歳のときです。祖母の妹が花柳流の師範の資格を持っている先生で、祖母も妹から日本舞踊を習っていました。そのつながりで母と一緒に祖母の妹のところにお稽古に行き始めたのがきっかけで、大学を卒業するまで14年近くやっていました。
日本舞踊のお稽古場では、10歳くらいの子どもから、70~80代のおばあちゃんまでいて。祖母と一緒に楽しめるお稽古事だったのが長く続いた理由のひとつですね。小さいころは、日本舞踊のお稽古というよりは、祖母に会いにいっていた感覚だったのかもしれません。お稽古は、お弟子さんがいるところでするので、そういった空間で世代を超えておしゃべりをするのも楽しかったです。
「春興鏡獅子」という踊りがあるんですけれども、これは歌舞伎から派生した派手な踊りで、ある腰元が獅子の舞をしているうちに獅子の精が乗り移るという話なんです。獅子が真ん中にいて、その両側に蝶々の精が二人いて、それは子どもがやる役なんですね。その蝶々の精を子どもだった私が、獅子をうちの祖母が演じたことがあって。世代を超えて日本舞踊で共演できたことがとても嬉しかったです。祖母も当時は60代だったと思うんですが、演じている獅子の役はおそらく20代くらいで。そのとき、「おばあちゃんでもこんなに色っぽく、若々しく踊れるんだ」と思った記憶があります(笑)。踊りを通して、人が変身していく感じは衝撃的でしたね。
気づけばアスリート並の筋肉が
長年やってくるなかで、一定の技量も身についてきたので、「名取」というその一門の名前を名乗ることができる資格もいただきました。これも本当に入り口に過ぎないのですが、年月を重ねてきたことが一つの名前として表現できるというのはすごく嬉しかったですね。
日本舞踊をやっていてよかったことは、とにかく体力がついたことです。派手には動かないので意外に思われる方も多いのですが、ものすごく筋肉を使うんですよ。踊りを綺麗に見せるには、着物姿が一番綺麗に見えるバランスにならないといけないので、そのために腰をぐっと落とします。さらに私は背が高いほうなので、人以上に膝を曲げることになる。その中腰の姿勢で何十分も踊るので、体幹も鍛えられますし、特に下半身の筋肉がつきますね。大学生のときに、ジムで身体の筋肉量を測ったことがあるのですが、「下半身がアスリート並みの筋肉」と測定されて(笑)。そのくらいに、インナーマッスルと足腰の筋肉がつきます。
さらに体幹が鍛えられるので、自然と姿勢もよくなります。今まであまり意識してこなかったですが、重心も低くなって安定するので、声も安定するようになっているのかもしれません。そのあたりは、いまのアナウンサーの仕事に活きている気がします。
齢を重ねる喜びがある
先ほど、「名取」の資格をいただいたお話をしましたが、名取になると、「名披露目」という、名取になったことを皆さんに披露する舞台があるんです。そこでは「藤娘」という演目を披露しました。これは、「藤の花の精が娘の姿で現れ、女心を踊る」という演目なのですが、当時先生は「ここは藤のお花の精が女の子に成り代わって踊ってるのよ」とわかりやすいような形で教えてくださって。だから当時はお花の精になりきって楽しんでいました。でも実は、この「藤娘」は遊女の踊りとも言われていて、大人になるとまた違った解釈ができる。歳を重ねると、自分の中で違った景色がみえてきて、踊り方も変わってくるのも、おもしろいところですね。
この「藤娘」もそうなのですが、日本舞踊のなかにはストーリーが組み込まれている踊りが多いんです。武士の情けだったり、娘が身分違いの男性を好きになってしまい、その人を慕う恋心だったり、ほかにも女性のしおらしさや奥ゆかしさ、でもたまに男の人を手のひらの上で転がしてみる可愛らしさなんかもありますね。そういう心の機微も、日本舞踊を通して知ることができたかもしれません。
私の師匠の師匠が花柳寿南海さんという人間国宝の方で、昨年亡くなられたのですが、90を過ぎてもずっと現役で踊ってらっしゃいました。舞台袖では、背中も丸くなられたおばあちゃんなんですけど、舞台に上がると、役が憑依したかのようにしゃんとされて。なんとも言えないオーラそして、味わいがありました。もちろんそれは寿南海先生の技量こそがなせるわざではありますが、歳を重ねて、経験を重ねていくことで、深まっていくものがあるんだよ、ということを感じさせてもらえる世界です。
「日本」を感じる緒として
私の好きな演目に「京の四季」という、日本舞踊の入門でよく踊る演目があります。春の桜や梅の美しさ、夏のちょっと陽気な感じ、秋の紅葉の鮮やかさ、そういう春夏秋冬の魅力が一曲の中に凝縮されている曲なんですね。「素踊り」といって、踊り手も着飾ることなく、浴衣一枚やサラッとした着物一枚で踊るような曲です。春夏秋冬だけでなく、一曲の中で娘になったり、武士になったりと、ころころ人物も変わる不思議な作品で。一つの作品のなかでいろいろ演じ分けをしているうちに、日本人が古くから愛してきた風情や「日本の心」のようなものを感じるようになってきます。
グローバル化が加速していくなかで、「日本人であることはどういうことか」がますます問われる時代になってきました。そのなかで、伝統芸能を通して、四季の美しさや人が人を想う気持ちなど、昔の人たちがずっと大切にしてきたものにふれると、その先祖たちが築いてきたものの上にいまの自分があるんだということを感じます。自分のなかに刻まれていたけれども、今まで意識していなかった「日本人のDNA」に気づく。自分が日本人であることをたしかに感じるための緒として、若い人たちにも日本舞踊や、伝統芸能にふれてもらえたら嬉しいです。
©️TBS
小川彩佳(おがわ・あやか)
1985年生まれ。東京出身。アナウンサー。「報道ステーション」3代目サブキャスターとして活躍後、2019年6月より「NEWS23」のメインキャスターを務める。(「NEWS23」は月〜木23:00〜、金23:30〜TBS系で放送中。)