第46回
「これからのアナキズム」の話 松村圭一郎×三島邦弘(2)
2020.06.18更新
5月23日(日)にオンライン開催した、松村圭一郎さんと代表・三島によるMSLive!対談「これからのアナキズム」の話。
『ちゃぶ台 Vol.5』に収録されている「はじめてのアナキズム」のなかで、国家のなかにいながら「アナキズム」は実践できると指摘した松村さんがさらに踏み込み、この状況を打破する「アナキズム」の可能性について語りました。
参加いただいた方から「希望と勇気が湧くライブだった」、「アナキズムから紡がれるキーワードに感銘を受けるとともに、withコロナ・afterコロナの生き方に対するヒントをいただけた気がします。」などなど熱のこもったご感想をいただいた2人のマグマ溢れる対話を、昨日と本日の2日間でお届します!
(構成:田渕洋二郎、構成補助:中谷利明)
昨日掲載分「これからのアナキズム」の話(1)はこちら。
コロナ後の大学のあり方
松村 これからは小さな規模で実現できる取り組みが重要になってくると思うんです。今回のMSLive! に集う人たちのあいだに小さな規模の集まりが生まれて、そこでアイデアが交換されたり考えが進められたりするのは、地理的に隣接している人たちとコミュニティを作るという形ではない、別レベルの小さなまとまりを作ることにつながっていて、それがとても重要なことだと考えています。
三島 『ちゃぶ台 Vol.3』でも、物理的で空間的な地元というコミュニティだけじゃない「地元」というつながりについて取り上げています。それは自分たちの手で自分たちの生活を作っていくということにおいては欠かせないことだなと考えています。
そして、このMSLive! を始めてからそのことをより実感するようになってきて、僕自身もどんどん企画が生まれてきて、どんどん進んでいくんです。コロナの影響で今年発刊の『ちゃぶ台』の制作は遅れているんですが、その制作もMSLive! のようにみなさんに参加してもらったうえでの企画会議のような形でやっていこうかなと思っています。
『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 Vol.3 「教育×地元」号』ミシマ社編(ミシマ社)
松村 この危機的状況下で、大学でも学生を集めて講義することができなくなり、ほぼすべての授業がオンラインになりました。教員は慌ててZoomの使い方を覚えてやっているんですが、やってみると意外と「これでいいじゃん」という感触なんですね(笑)。
講義を録画してYouTubeに限定公開でアップすれば、体調不良や発達障害のために講義に出席できない学生たちは自分の居心地のいい場所で、いい時間帯に見ることができる。そうやって、危機的状況下において私たちには選択肢が増えたわけなんです。
いままで出版イベントも、だいたい東京か関西かでやってきましたが、オンラインでやれば全国どこにいても参加できる。地方に住んでおられて、「なんでイベントは東京や大阪ばかりなんだ!」と思っていた方々にとっては別の回路が生まれたわけですよね。
もちろん代替できないものも見えてきていて、ゼミの議論や学食で友達としゃべったり、サークル活動というのがそうでしょう。だからこそ、オンラインでできることはオンラインでやればいいと思うんです。
そして、会社勤めの方でもテレワークで勤務していると「『組織に属している』というのはどういうことなんだろう?」「わざわざ電車に乗って会社に行って仕事をしてるけど、家にいてもできるじゃん」という疑問が心の中に芽生えてるんじゃないかと思うんです。今まで当たり前だったことが揺るがされますよね。そのときに、この新たに手にした選択肢をもってコロナ後をどう生きていくのかが問われてくると思います。確実に、何かが変わっていきそうですよね。
三島 これは若い人にとってチャンスですよ。
いま、誰もが授業に出席できないという事態になって、逆に選択肢は増えたわけですよね。自分が所属している大学や組織に囚われずに、自分に一番響く声から何かを学ぶことができる。学ぶ欲さえあったら、そこでつながって突破口が開かれるということがあるんじゃないかなと思いましたね。
松村 Zoomで授業をやっていると、「別に大学に在籍している人に対してだけでなく、誰に開いてもいいんじゃないか?」という気持ちになってくるんです。岡山大学に入らなくても大学が「オンライン枠」というのを作って、「東大のこの科目だけオンラインで受講する」「この先生の講義を聞く」という形にすれば、特定の大学に籍を置く必要性がなくなります。これまでも大学同士の提携授業はありましたが離れた大学間を移動するのはたいへんですよね。オンラインならそれが楽にできますし、録画等での配信があれば時間も自由になる。
そもそも、いま大学1年生はこのタイミングでまだオンラインでの授業しか経験していないんですよね。これが彼らの大学の原風景になる。そうなるとおそらく、私たちのようにもともとオンライン上ではない大学が原風景だった人にとっての大学のイメージとかなり違ってくるはずです。若い人たちは今までと違う前提に立って大学との関わりがはじまってる分、新しい発想や新しいリクエストを生み出していくかもしれません。これは大学だけじゃなく、社会のさまざまな場面で現れてくるでしょうし、それは着実に社会を変えていく力になっていくと思います。
Q&Aより
「強いリーダーでないとしても正解を言ってくれるだれかを探そうとしてしまいます」
松村 この混乱した状況に対するヒントが欲しいというのは、私自身もそうです。ほとんどはじめての事態で、どうやって目の前の問題を理解するのかって、本当にわからないですよね。こういう状況だからこそ、過去に人類が経験した歴史的な知見や、異なる視点から考えてきた人のアイデアが詰まった本は、とてもありがたい存在ですよね。「新たな情報を手に入れたい」「学びたい」「誰かの言っていることを聞きたい」というのは悪いことではないと思います。ただ、その情報や言葉を「正解」として、受けとるだけでは不十分なんだと思います。それらの知見が辿ってきた異なる文脈を考慮しながら、自分なりの「答え」を導く必要があるんだと思います。人の言うことをそのまま無批判に受けとめるって、それもひとつの思考停止になってしまうわけなので。
「田舎のソファで、東京の本屋さんでしか聞けないような話を聞けるのは夢のようです。人々が細かく分断される恐怖のようなものを感じます。異なる価値観を持つ人はどこにでもいる」
松村 異なる価値観って怖くもありますが、それは私たちの豊かさでもあります。一人ひとりがバラバラに生きていて、バラバラのことを考えていて、バラバラの現実を持っている。だからこそ、いろんなあたらしいアイデアが生まれるわけですよね。みんな同じような環境で生まれ育って同じようにしか考えられない人間しかいなかったら、その組織は動きを止めてしまう。
組織って「誰もが組織のために動きはじめると組織自体が動かなくなる」という矛盾を抱えています。そうではなく、「私はなんのために仕事してるんだっけ?」と、個々が組織を超えた自分の信念や価値観を持ちながら反組織的に動ける組織ほど柔軟性があって、危機にも対応できるんです。組織が決めた目標にだけ向かって一致団結して進むと、一見物事がうまく進むように見えるんですが、通常モードではそれでよくても、変化がはげしい時代や危機のときには組織の活性を弱めてしまいかねない。この「自立」と「助け合う」が同時に起きる必要がある。一人では動けないから仲間をつくるわけですが、その組織の維持自体にみんなの目が向くと忖度し合って、みんなの足がとまってしまいます。その違う価値観や差異をどう豊かさや潜在的な可能性として受けとめられるか、こんな時代だからこそ、それが問われている気がします。
「小さなまとまりだと、排他的な内輪にならないか」
松村 これは三島さんもすごく意識してるんじゃないかなと思うんですけど、どうでしょう? ミシマ社っていつも楽しそうに仕事をしてるし、でもそれが内輪で楽しんでるだけではダメですよね。そして、ミシマ社ファンはいるけれど、既存のファンを超えて本を届けていかないとミシマ社自体続かないでしょうし。小さい会社であるがゆえに機動力はあるけれど、逆に硬直してしまったり内輪のものに留まってしまう危険性があると思います。
三島 小さくやることで自分の話が通じる人だけでコミュニティを作ってしまわないよう、気をつけているつもりです。ミシマ社はその姿勢が本作りで一番出ていると思います。
ずっと本作りをやっているとどんどん玄人向けになってくるんですね。そうするとわかる人にだけわかるものになってしまいかねない。これまで読書習慣を持たなかった人でも、たまたま手に取ってみたら止まらず読んでしまったとなるようなもの。開かれつつパワーのあるという、それが常に両方ないといけないなと思っていて、それは組織も同じことだと思っています。
松村 私も寺子屋をやっているんですが、ここを内輪の固定メンバーだけにしてはいけないなと思って毎年全力で常連さんの期待をいい意味で裏切るような企画を立てられないか、と考えています。私自身が成長するためにも、異質な人たちと出会い続けて、その異質な声を受け止めて考えなきゃいけないんです。本屋さんにも常連さんがいますが、常連さんだけでは維持できないわけですよね。小さいながらも、開かれた場所にどうするか、それはとても重要な問いだと思います。
「権力と空気の関係が気になったのですが、それについてお聞かせください」
松村 誰かが実際に監視していたり処罰されたりしなくても、誰かが「空気がある」と感じてそれに従った行動を取るだけで、権力がしっかり効力をもってしまうんですね。でも最初は不確かなものでしかないんです。なんの合理的理由もないけど「そうしないと風紀が乱れる」と、みんながそんなもんだと思えば思うほど、そのルールが権力的に作用してしまう。ルールというのはみんなが守らなければいくらでも空文化できるものです。じつは誰が権力を作用させているかというと、私たち一人ひとりの行動にかかっていると思います。
「アナキズムでは個人はどのように捉えられてきたのでしょうか」
松村 自立していないといけない。けれど助け合わなければいけない。「自分だけでなんでもできる個人」というのが近代の個人主義のイメージだとすれば、自立しながら相互に依存して、初めて自立していると言えるという、矛盾したものを兼ね備えているやり方がアナキズムに近いだろうとは考えています。
イヴァン・イリイチの『コンヴィヴィアリティのための道具』という本の訳者である渡辺京二さんは「コンヴィヴィアリティ」の翻訳として「自立共生」という言葉をあてられています。「コンヴィヴィアリティ」って、みんなで祝宴をあげたり、歓待するという意味もあるんですが、そこに「自立共生」という言葉をあてたんです。組織にべったりとくっつくとダメで、個々人はある程度自分で立っていられることで尊厳を持つ。ただ、その尊厳は隣の人がいてはじめて成り立つものです。私たちが喜びを感じるのは、そこに与える相手がいるときですよね。それによって私の存在が認められる。これまでは経済的な豊かさは、いかに自分の所有物を増やすかを目指してきましたが、持っていてもそれを与える相手がいないって、さみしいですよね。
「これからも災害や疫病が多く起こりそうな社会において、アナキズム的思考はとても重要なものになると思いますが、これを広く普及させ、定着させるためにはどうすればよいとお考えでしょうか」
松村 あんまり広く普及させようと考えなくてもいいんじゃないかと思うんです。
これまでは広く普及したものが成功で、たくさん売れた本がよくて、持続的に何かが続くことが評価されてきた時代でしたよね。でもこれから、日本社会が縮小していくなかで何かが右肩上がりに増えていくなんて、あまり望めません。そもそも、それぞれが自立的に現場で柔軟に動こうとしているのに、ある考え方をただ信奉するような「信者」を増やしてはダメですよね。アナキズムって、それぞれが自立して考えて、現場で行動できる人間を目指す思想ですから。
同じ考えをみんなの頭に植えつけようとする志向って、まさに国家の視点そのものです。それ自体がすごく権力的になってしまう。かつての学生運動などもそうですが、小さくまとまった場自体がすごく国家に似た権力の場になってしまうことは十分ありえます。国家は、あまねく隅々にひとつの考えや思想を普及させようとしますが、それをやってはアナキズムではないわけです。
なので、普及させるとか、定着させるとか、考えない(笑)! それぞれが勝手にやる!
「はみ出す勇気が必要だと思いますが、同調圧力の強いこの国でははみ出すと叩かれる。それが怖いので多くの人は争うことを諦めて、それが危険なことだと気づかずに強いリーダーの出現を期待するのではないでしょうか。そんな風潮を心配しています」
松村 みんなでまとまらずにやっていくのは難しい道だし、時間のかかる道だと思うんですね。でも私たちは、大学にいようがいまいがそれぞれにお互いをつくりあっているわけです。ミシマ社も若手を育てているだろうし、本を出すことでそれが誰かの生活を豊かにしたり、ヒントとなったりするわけです。私たちが社会で働くって、それぞれに育て合うことであって、みんなが教育の当事者なんだと思うんです。どうやってお互いの歩みを止めないで、刺激しあっていけるかが大事なんだと思います。たぶん、それぞれが自分の信念にいかに忠実になれるかですよね。
ミシマ社だって、「はみだす」ことが目的だったわけではなくて、ただ出版の原点に回帰しようと動きはじめたと思うんですが、でもその後、小規模な個性的な出版社って、この10年くらいですごく増えましたよね。私自身も、上から降ってくることとかを無視して、自分が信じるように勝手にやっています。だって、それが大学という場所ですよね?って。そうやって自分の信念にそってはみ出す実例が増えると「そんなやり方もあるんだ!」と刺激しあうことになるんだと思います。
「毎日の子育てが、近所の人たちとのアナキズム的実践です。アナキズムは私たちの手元にある。コロナのおかげで会社から解放されて時間が生まれて、考える時間ができたことに感謝している。でもその一方で命を落とされた方々がおられることに対する想いも強くある。」
松村 東京の中心であってもアナキズム的な「辺境」はつくれるんですよね。別に田舎だから辺境というわけでもないと思います。それは中心的な価値観や支配的な価値観とは異なる隙間みたいな場所。それは最初の話に結びつけると、権力は外側にある何かではなくて、内側にあるということ。だから私たちが権力に抗う場所も、それぞれが内側につくり出すものだと思うんですね。私なら国立大学という国策で作られたものの中につくり出すのが重要ですし、東京というシステム化されて経済化された場所にそうではない場所をつくり出すとか、私もそういった動きができればいいな、と思いながらやっています。
編集部からのお知らせ
【「これからのアナキズム」の話 動画販売中!】
こちらのイベントの動画チケットを販売しています。おふたりの対談を映像、音声つきのライブ感溢れる動画でぜひご体感ください!(こちらからお買いもとめください)
【6/21(日)】MSLive! MSマルシェ「業界最高値」第1回開催!
開催日時:6/21(日)10:00〜11:00
ゲスト:タルマーリー(渡邉格さん 渡邉麻里子さん)
インターネット環境の普及により、様々な商品の比較検討が容易になり、その結果「業界最安値」が最大の価値であるとされるようになりました。 「価格破壊」という言葉もまた、価値があるように喧伝されていますが、それはどこかで誰かにしわ寄せがいっている中で起きていることであって、それによって社会は貧しくなっているとも言えるのではないでしょうか。
本マルシェでは、「価格創造」をめざします。 あえて「業界最高値」で商品を提供する試みです。 もちろん、いたずらに価格をつりあげるわけではありません。 ものづくりのつくり手、小売、消費者の、誰かが損をすることなく、持続可能な小さな経済をつくる、その小さな試みになればと考えています。
第一回ゲストに、鳥取県智頭町で地域の天然菌と天然水と自然栽培原料を使ってパンやビールつくりをされており、ちゃぶ台シリーズでもたびたびその取り組みについてご執筆いただいている、タルマーリーさんをお迎えします。
ぜひ参加して、お買い物も楽しんでみてください!
※MSLive! ほかにも講座を続々と開催いたします。こちらをご覧ください。
2020年度ミシマ社サポーターのご案内
【サポーター期間】2020年4月1日~2021年3月31日
*サポーターさんの募集は毎年その年の1月~3月に行っております。募集期間以降も受け付けておりますが、次年度の更新時期はみなさま来年の4月で統一です。途中入会のサポーターさんには、その年度の特典は、さかのぼって全てお贈りいたします。
サポーターの種類と特典
◎ミシマ社サポーター【サポーター費:30,000円+税】
毎月ミシマ社から贈り物が届きます。以下の特典を少しずつ分けて、一年間お届けします。
【ミシマ社からの贈り物】
* ミシマ社サポーター新聞(1カ月のミシマ社の活動を、メンバーが手書きで紹介する新聞)
* 紙版ミシマガジン(非売品の雑誌。年2回発行・・・の予定です!)
*『ちゃぶ台』をはじめとした、2020年度のミシマ社新刊4〜5冊(何が届くかはお楽しみに!)
* ミシマ社手帳などのオリジナルグッズ
* サポーターさん限定イベントのご案内
* ミシマ社主催イベントの割引
・・・などを予定しております!(※特典の内容は変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。)
◎ウルトラサポーター【サポーター費:100,000円+税】
※ウルトラサポーターは、法人・個人問わず、年間30名様限定です。
【ミシマ社からの贈り物】
上記のミシマ社サポーター特典に加え、
*2020年度刊行のミシマ社と「ちいさいミシマ社」レーベルの新刊すべて
*代表ミシマの新刊『パルプ・ノンフィクションー出版社つぶれるかもしれない日記』(河出書房新社より2020年3月刊行予定)
*ウルトラサポーターさん交流会(お食事会)
*「ミシマ社をどうするか会議」へのご招待
(※特典の内容は変更になる場合もございます。ご了承くださいませ。)
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