第73回
特集『菌の声を聴け』発刊記念 タルマーリー(渡邉格・麻里子)×平川克美対談 「クレイジーで豊かな小商いのはなし」(1)
2021.07.07更新
2021年5月28日『菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』の発売日当日、平川克美先生をお迎えして、タルマーリーのお二人との鼎談イベントをMSLive!にて開催しました。
『菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』渡邉格・麻里子(ミシマ社)
身体を張った実践が先行して理論が後からついてくる、アドベンチャー好き、小商い実践者、フライング人間・・・等々、平川先生と格さんには共通項が次々と浮かびあがり、文化としてのタルマーリーのパンやビールの話から、小商いという生き方の話まで、まさにイベントタイトルどおりの「クレイジーで豊かな小商いのはなし」が繰り広げられました。
ミシマガジンでは2日間にわたり、その模様の一部をお送りします。
最初から最後までおもしろく、泣く泣くカットしたところもたくさんありますので、ご興味のある方は、こちらから、アーカイブ配信(有料)もお楽しみくださいませ。
構成:星野友里
タルマーリーは一つの事件
―― 本書はいかがでしたでしょうか?
平川 面白かったですね。いやぁ前作(『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』)も衝撃だったけど、なんていうんだろうね、もう、タルマーリーっていうのは存在自体が一つの事件だよね。
『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし』渡邉格(講談社+α文庫)
格・麻里子 (笑)。
平川 理論書を書くような頭のいい人はたくさんいるけど、身体張ってここまでやってる人っていうのは・・・まあ俺も身体張ってるんだけどさ、気合いの入り方が違うよね。すごいなと思いますよ。渡邉家っていうものが、僕にとっては格と麻里子だけじゃなくてね、ひかるとさ、それからもこ。この四人の家族の話ですよね。アドベンチャーファミリーがさ、いろんな困難に突きあたりながらも濁流を下っていくような、そういう爽快感があるよね。こういう感覚は、タルマーリーからしか受けたことがないんですね。
格・麻里子 ありがとうございます。
平川 水の綺麗なところで育つと、ああいう子が育つのかなあっていうことをね、思いますよ。本当に素晴らしい実践だと思ってます。
格 ありがとうございます。今回この対談企画が組まれたあと、『小商いのすすめ』『「消費」をやめる』『21世紀の楕円幻想論』と、平川先生の三部作をあらためて一気に読んだんですけどね、先生が仰ってることを俺はやっているんだと思いました。すごく通底する部分がいっぱいあって。
平川 そうだね、うん。
格 今回の本を書くにあたり、最初は、画一化してどんどん世の中が暗くなっていく中で、多様化を進めなきゃいけないんだ、と考えて書き始めたんです。でも、『21世紀の楕円幻想論』で先生が書かれているように、途中で、いやいや多様化も画一化も全部同じ道だと、そこに気づきました。書くことを通して、中道に落ち着いたというか、肩の力が抜けて自然になったというか、自分らしくなっていったような感じがしています。
ビールの風味は文化に直結している
平川 最近、連載している関係もあってね、毎月温泉に行ってるんですよ。若いときはいわゆる高級旅館というのにも行っていたけどさ、みんな同じなんだよね。で、だんだん飽きちゃって、もうぼろ宿と言われるようなところにしか興味がなくなっちゃって。旅行に行くっていうのはやっぱりどこかアドベンチャーを求めて行ってるんだよ。
格 本当に、それって商品にも言えます。本にも書いているんですけど、たとえばビールなんかも、今流行っているものを追求してつくり始めると、みんなおんなじ味になっていっちゃうんですね。
平川 前にね、澤乃井の創業社長に話をうかがったことがあって。日本酒は端麗辛口という水のような酒がどんどん好まれるようになっていったけど、あれは、食いもんが変わっていったんだと。かつては、血が滴ったような鰹なんかの刺身を食べてた。それには濁り酒みたいなのが合うらしいんだよね。
そして食い物が変わっている背景には、その人たちの生活が変わっているんだと。で、まさにそれが文化なんですよ。わかりやすくて、強い特徴がなくて、なおかつドライで、そういうものを、我々はどんどん志向してきた。だから、野生人である渡邉さんがつくるビールがドライビールじゃまずいわけだよ。渡邉さんのビールの背景には、ある種、モダンに対する非常に強い抵抗と言うのかな、そういう文化がやっぱりあるんだというふうに僕は思いますけどね。
格 仰るとおり、大手の会社は、薄くてドライなビールづくりをするようになっていったと思います。一方で、クラフトビールはそれに逆らうように、もっと味が濃くてホップがあってうまみが強いものを追求するようになって、二極化していったんです。
私自身は、何をつくればいいんだろうと考えたときに、生活の中で皆さんの価値観を広げるようなビールづくりがしたかったので、第三極に向かったんですよね。それがすっぱいビールであったり、そして水のようにずっと飲み続けられるビール、一応目標は飲んでも酔わないビールをつくりたいというね。これは冗談ですけど。
平川 いや、確かにあんまり酔わなかったなあ。すごく飲みやすかったですよ。
格 ありがとうございます。最終的には薄味の食べもの、自然、野生から正しくうまく仕入れたものと合うビールをつくることによって、そういう食卓が増えていけば環境にもやさしくなるという、そんなことをやってみようと思って、ビールを開発していきました。
共通点は「フライング人間」なところ
平川 格さんが突飛なことをやるじゃないですか。今の日本の中でさ、仕事としている以外で自分で井戸を掘るやつたぶん100人もいないと思うよ。
麻里子 穴掘るの大好きなんですよ(笑)。
格 本を読んでない方はたぶん、なんの話だと思うと思うんですけどね。そう。穴を掘るのは大好きで、昔から掘ってましたね。
平川 タルマーリーというお店自体がそうなんだけどさ、パンをやって、それからビール。あまりに無計画というか。そういうひらめきがあるんですか?
格 自分の中でひらめいては消えひらめいては消えがあるのですが、5年くらい前に温めてたものが急に「今だ! 今しかない!」ってなるんですね。
平川 麻里子さんはそのへんどうなの? やめといたほうがいいんじゃないの? とか言わないの?
麻里子 私は結構心配性だし、前もって準備をしておくタイプなので、結婚したころは「もうちょっと考えてからにしよう」っていちいち言ってたんですけど、言っても意味がない、聞かないので、もう諦めて。でも結局、私が協力しないと物事がうまくいかないので、「ふ~ん」って言いながら誤魔化していると、そのうち諦めるということを私も覚えました。だんだん「それやったほうが良いかも」って思えるようになったら、一緒にやり始めますけれども。
平川 普通ね、職人さんってやっぱり言葉を持たない人が多いんですよ。どっちがいいとか悪いっていうんじゃなくてね。格さんの場合は言葉を持ってるから。ただ普通の人は最初に言葉で考えて、ビジネスプランなんかつくっちゃうんだけど、そうじゃなくて、むしろ最初に何か直感的に始めてしまう。それであとから「なんでおれはこっちの道を来たのか」というのを言葉にする作業が後追いで出てくるっていう感じがして、そこはある意味ぼくと全く一緒なんですよ。
格 結局、新しい局面を迎える時に、自分のなかでドーパミンが出てワクワクして、それが幸せだと思っているので、定常的にお金が入ってくるとかもあんまり興味ないし、大きくなるっていうのも全然興味ないしというのはあるんです。あらためて著作を読んでみると先生も全く同じだなあと思って。
平川 直感って言うと格好いいんだけど、フライング人間なんだよね。もう号令が鳴る前に飛び出しちゃって。それであとからそれを正当化する涙ぐましい努力をしている(笑)。なんかね、アドベンチャーがないとね、生きてる実感がしないの。
編集部からのお知らせ
『菌の声を聴け』の「はじめに」を全文公開しています!
ミシマガ記事『菌の声を聴け』刊行記念特集 タルマーリーのクレイジーで豊かな新刊をご紹介!にて、「はじめに」や渡邉格さんのコメント、CM動画など公開中!
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インタビュー「お金を分解する」でお二人にお話をうかがっています!
渡邉格・麻里子(タルマーリー) ×大橋トリオ×ナガオカケンメイ のトークイベント、アーカイブ配信中!
本屋B&Bさん主催で開催された『菌の声を聴け』刊行記念イベント「パンとビールと音楽と ~長く、深く、ちょっと広く届ける ものづくり~ 」のアーカイブ動画を配信中です!
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『ちゃぶ台 Vol.4』にもご寄稿くださった発酵デザイナーの小倉ヒラクさんと、タルマーリーのおふたりのオンライン対談イベントが8/2(月)に開催となります。