第90回
斎藤幸平×タルマーリー(渡邉格・麻里子)対談 コモン再生は日本のグローバルサウスで芽吹く(後編)
2022.01.05更新
2021年11月25日、『人新世の「資本論」』(集英社新書)がロングセラーになっている斎藤幸平さんと、『菌の声を聴け』(ミシマ社)の著者タルマーリー(渡邉格・麻里子)の対談がMSLive!で実現しました! パンクロック、食、気候変動、マルクス、脱成長コミュニズム・・・。実践と理論を通じて、これからを生き延びるためのコモン再生の方法を探るエキサイティングな対談の一部をお届けします!(本対談の全編は、アーカイブ動画として購入・視聴していただけます)
(構成 岡田森)
時間をかけた「質」を取り戻す
格 斎藤さんの言う「コモン」を再生するために、「質」というものがすごく重要だと思っているんです。みんなが「質」をわかるようになれば、「ちゃんと作られたものはちゃんと価値があって、価格がつくんだ」という流れの中で消費活動がされていくと思うんです。
いま、タルマーリーの二号店の改装をしてもらっている素晴らしい大工さんがいるんです。その方に聞いた話なのですが、「長持ちする家」は、ちゃんと育った木を使って、木の強さや裏表をぜんぶわかっている人が作らないとできないんだそうです。
良いものは、自然との循環の中で、技術をもった人間が、長い時間をかけて作るんです。
そういったものが市場にはちょくちょくあるんですけど、それがわかる人は少ないんですよね。
斎藤 いまは逆ですもんね。早く作って早く消費して。とにかく新しいものを与えていくことで、一瞬の高揚感を消費していく。食もファッションも、ハレばかり。過剰な消費主義の強制的な回転にひたるようになっていますよね。それこそ自然の声を聴くことや、マルクスの言う「使用価値」を忘れてしまっている。これをどう取り戻していくかですよね。
「質を求めるのが良いんですよ」と言うと、それは「お金持ちの贅沢」と言われたり、私も「お前、大学教授だからそんなこと言ってるんだろ」と言われてしまうので難しいところはあるんです。
格 その文脈で思いついたんですけど、「安いものを購入すると労働者が一番損するよ」という簡単な方程式を、もうちょっとメディアが言ったら面白くなりますよね。前著の『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』ではそういう話をしたんですけど。
高くて買えなければ、給料を上げてもらうしかないという圧力をかけて、徐々にインフレを起こしていく。
斎藤 日本は給料低すぎですよね。給料を高くするだけで日本の経済は全く変わると思います。
ただ、それで余裕が出てくる中で、みんなが「高いけど環境に悪いものを買おう」となったら意味がないので、もっと環境に良いものにお金を使おうとか、そういうマインドセットになっていくことで、脱成長コミュニズムの実現が近づくと思います。
左:タルマーリーの渡邉格さん、麻里子さん 右:斎藤幸平さん
年数を重ねるほど楽になるものづくり
格 無肥料で農業をされている方の話を聞くと、年数を重ねることで、虫も出なくなるし収量も上がり、雑草も生えなくなるそうなんです。
タルマーリーのパン作りもすごく楽になっています。野生の菌を使うことで一週間に一回しかパン生地を仕込まなくて良くなっています。
実は、こういった手法や暮らしは、年数を重ねるほど楽になるんです。これは今日私たちが一番言いたいことなんです。
自然の循環に入りながら、科学の知見も活かしていくと、実はもっともっと豊かな生活ができて、時間も作れるようになるんじゃないか、ということを証明していきたいんですよね。
斎藤 農業の話でいうと、先進的な農家の方々はそれぞれ独自の農法を編み出していて、それぞれ違う世界観を持っていたりするんですよね。仮に私が農業やってみたいな、と思ったとしても、真似しづらいし、ノウハウもない・・・みたいなところが広がりを妨げている部分があると思うんです。
そのあたりについて、科学の知見も活かしながらどう新しい循環を作っていくか、というところに興味があります。
格 私たちが菌から教えてもらったのは、「場を作る」という考え方です。コモンとも似ていると思います。
野生の菌は、環境を整えていくと年々採りやすくなっていきます。
これを人間にたとえると、タルマーリーはスタッフがなるべく自由いられるように失敗を許していて、未来に不安がないように家や食べ物も全部提供するということをやっています。電気水道インターネットも無料ですし、仕事の後はビールも飲めます(笑)
製法も、自分たちが培ってきた技術を若い人たちにすべて開放しています。
生産者がそういうことを心がけていくのが、すごく重要だと思っています。みんながそういうことをやっていかないと、このまま地球って終わっちゃうかもしれないので。
暗い雰囲気を払拭するようなものづくりをしていきたいと思っています。
斎藤 そういう場がいくつも集まってくると、社会を変える力になりますよね。
智頭の3.5%を動かす
斎藤 お二人は、日本の未来は明るいと思っていらっしゃいますか?
格 暗いですよね。今のところは。
麻里子 今の日本は都市化の行き過ぎがひどいと思います。もうちょっと分散していかないと、脱成長コミュニズムの実現は難しいのではないかと思うんです。
自分は田舎にいるので、田舎に人を呼びたいと思っています。もちろん、東京ですごい幸せで生きやすかったら良いんですけど、そうじゃなければ、田舎で楽しく暮らせるよ! と言いたいし、体現したい。
そうしないと、このままではみんな餓死しちゃうんじゃないでしょうか。
格 日本の未来は暗くて、このままダメになっちゃうんじゃないかと思います。水害とか怖いですよ。雨の降り方が尋常じゃないです。日本のグローバルサウス・智頭町もいつか水没してしまうかもしれません。このまま手をこまねいていても、経済の問題と資本主義の問題に殺されると思います。
だからこそ、智頭町で思い切ったコモン再生の事例を作れると思っています。さっきも言ったようにタルマーリーはスタッフに家も食事も提供しているんですが、それだけではダメだと思っていて、二号店に映画館を作ったんです。スタッフと地域の方や、遠くから来た人の横の繋がりができるように。
最終的に、菌と向き合うための街を作っていきたいですね。
斎藤 智頭町を乗っ取ろうとしているんですね(笑)
格 いやいや(笑) コモンを作っていこうということです。
麻里子 タルマーリーだけでそれをやっていても仕方ないので、町も巻き込んで、智頭町で脱成長コミュニズムを実現していきたいです。
智頭町の人口は約6,600人なので、斎藤さんが『人新世の「資本論」』で書いていた「社会が大きく動くための3.5%」は232人なんですよ。できそうな気もするけど、ちょっとまだ難しいかなという数字ですが、とりあえず私たちは智頭町で挑戦していこうと思います。
格 我々が目指す脱成長コミュニズムは、本当に美味しいものが食べられて、面白いお店があって、日々楽しいんですよ。うちのスタッフも最高に良い子たちですよ。こんなに面白い空間が作れるんだ! ってことを、声を大にして言いたいです。
斎藤 素晴らしいですね。智頭で大革命が起きますね。本当に面白い地域で、また行きたいと思います。
格・麻里子 ぜひぜひ!
(おわり)
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