第100回
特別鼎談「共有地としての一冊!取引所」(前編)
2022.05.20更新
『ちゃぶ台9』がいよいよ来週金曜日の5月27日(金)に刊行いたします。今回の特集は「書店、再び共有地」です。
『ちゃぶ台9 特集:書店、再び共有地』ミシマ社編(ミシマ社)
本を届けているうちに、人々の居場所になっていたり、「書店」の仕事から派生して、日常生活の助けになる場、町の交流の場となっている「共有地」的な全国の本屋さんを、営業メンバーが取材し、特集でお届けしています。
本特集は、平川克美さんが2月に刊行した『共有地をつくる』がきっかけとなりました。
平川さんは、「共有地」について、こんなことを書かれています。
社会を安定的に持続させてゆくためには、社会の片隅でもいいから、社会的共有資本としての共有地、誰のものでもないが、誰もが立ち入り耕すことのできる共有地があると、わたしたちの生活はずいぶん風通しの良いものになるのではいかーー平川克美『共有地をつくる』
本日と明日は、読者・書店・出版社を風通し良くつないでいくための、いわば出版界の「共有地」づくりに取り組む3人による鼎談をお届けします。
■社外取締役 竹本 吉輝(株式会社トビムシ 代表取締役)
1971年神奈川県生まれ。地域社会の共有地(commmon)そのものである「森林」に着目、その地の森林業を再興しながら、素材やエネルギーや食料を域内循環できる仕組みを整え(ることを通じコロニーの動的平衡を担保す)ることを企図し、2009年株式会社トビムシを設立。以降、全国各地で森林及び地域の有機的関係性の再編集に資する(ような)事業をトータルにデザインしている。また地域の自立(律)性を担保し得る手段としての「地域通貨(community coin)」や「地域人材」の再編集を企図した株式会社eumo設立にも参画。専門は環境法。国内環境政策立案に多数関与。同時に財務会計・金融の知見を加味した環境ビジネスの多面的展開にも実績多数。立法(規制)起業(市場)双方の現場を知る。武蔵野美術大学/大学院 非常勤講師(社会造形論)。
■社外取締役 近藤 淳也(株式会社OND 代表取締役社長)
1975年三重県生まれ。京都大学理学部卒業。2000年に同大学院中退後カメラマンなどを経て、2001年にQ&Aサービス「人力検索サイトはてな(現:人力検索はてな)」を開始し、京都で有限会社はてなを設立。2004年に株式会社はてなに改組。ブログなどのサービスを開発。2016年東証マザーズ上場。2017年株式会社OND設立。不動産エンターテーメント「物件ファン」、トレイルランナーのためのトラッキングサービス「IBUKI」、京都市内の複合施設「UNKNOWN KYOTO」を運営。現在、同社代表取締役社長のほか、株式会社はてな取締役、NPO法人滋賀一周トレイル代表理事、トレイルランナー、ときどきカメラマン。
(構成:野崎敬乃)
森林は地域の共有地?
三島 じつは、このミシマガで「株式会社一冊」が取り上げられるのは初めてです。
なので、私から少し自己紹介をさせてください。昨年10月、一冊!取引所を運営する株式会社カランタの代表に就任しました。今年の初め、社名を現在のものに。そのあたりの経緯についてはこちらをご覧いただければと思いますが、私にとって最大級に嬉しいのは、近藤さん、竹本さんの加入です。近藤さんは、以前、ミシマガで連載くださっていたこともあるので、ご存じの方も多いでしょう。
逆に、竹本さんは、誰? と思われた方もいらっしゃるかもしれません。実は私自身、数年前までそうでした(笑)。
今では、経営のこと、とりわけ文化、地域、経済がそれぞれなりたっていくため、ひとつの会社が実践できる具体的動きに、とても大きな学びを得ています。きっと、「一冊」にも、そこでのノウハウをどんどん注入くださることと思います。
ともあれ、まずは竹本さんから、「トビムシ」がどういう会社なのかを教えていただけますか?
竹本 もともと僕は、地域の共有地の最たるものが森林資源だと思ってきました。森はそのままマテリアルになるし、エネルギーに転用可能だし、水源地にもなる。栄養価の高い水が流れることで、中流域の農地やそこで作られる食料にまで影響を及ぼすこともある。
マテリアルとエネルギーと食料がちゃんと持続可能な状況であれば、その地域は持続可能になり得るのではないか。そうした仮説をもっています。
しかも日本って7割が森、もっというと山ですよね。だったら「森林に焦点を当てないと無理だな」と思ってたんです。「地域はどうやっていけばいいんですか」みたいな話がたくさんある中で、森を無視してその地域をどうこうしていくというのは、土台無理なんじゃないかと。
三島 なるほど。
竹本 地域の持続可能性がないということは、その集合としての国や地球の持続可能性もないということです。だからまずは森林を共有地として、その地域の人たちが持続可能であるようにするための初動をもう一度、地域の人たちと一緒に取り戻す。「トビムシ」は、株式会社でもありますが、そういうある種の運動体なんです。
そういう運動体が、現状、全国に10カ所あって、毎年毎年、増え続けていて。地域の森林資源という共有地をもう一回取り戻す、その一つずつは小さいけど、それらが集まって大きな流れにできたらいいな、と考えてやっています。
近藤 地域の活動は、こうやったらうまくいく、というのがあるのですか?
竹本 それぞれ地域ごとにまったく違うことをやっている、というのがトビムシ唯一の法則です(笑)。地域によって、山のつくられ方や斜度斜面、樹種や林齢構成も異なります。都市というマーケットに近いか遠いかによっても全然違うので、最大公約数的な「これがあれば林業はなんとかなりますね」という解決策は持ち合わせていません。
その地域に森があり続けたということは、かつてそこに木にまつわる営みがあり、みんなが暮らせていたということの証左でもあります。そうであるならば、その地域ではどうやって林業をやってたんだろう、木材業とどうつながっていたんだろう、大工さんや家具屋さんとどうつながっていたんだろう、ということをもう一度紐解く、という所作が必要になります。
製品の価値を一割上げるのは大変だけど
近藤 たとえば木材をそのまま出荷するのではなく、加工までやったほうがいいとか、そういうことはありますか?
竹本 それでいうと、木を切ったあとの状態って、含水率が高く、実際、半分以上が水です。かつ木は丸い。それを輸送のために四角い空間に載せると、間が空いてしまいます。すなわち木を切って木のまま運ぶ、というのは、7割くらいは水と空気を運んでる状態、ともいえます。ので、10000円の木を運ぶのに4000円くらいかかったりする。これはあらゆる商材のなかで最も輸送費割合が高いと思います。ので、乾燥させることで木の中の水分を飛ばして、木をなんらかの形に加工して、最終製品でなかったとして、少なくとも板なんかにすることで、間がなくなり、空気を運ぶ事がなくなる。この瞬間に輸送費割合が一桁変わります。
どんな商材でも、その価値を1割上げるというのは大変ですよね。10000円の本を11000円で売るというのはそれなりに大変ですが、いま言ったようなことでコストが1割どころか3割から5割くらい減るわけです。
そういうことは共通してあって、誰に届いてどんな形で使われるのかを意識できない構造が、様々なことへの関心を希薄化させるひとつの流れのような気がしています。ので、自分たちで少なくともここまでは加工する、それをこんな人たちに届けよう、みたいな気持ちを地域側で持てるのは、すごく重要です。
いままでは、とにかく木を伐って、原木市場に持って行って、そこからどこに行くかは知らない。そうすると、どこの原木市場に持って行けば1円でも高く買ってもらえるのかとか、どうすれば1円でもコストを下げて持って行けるか、ということしか考えない。その土俵に乗っちゃうと、大規模化できない、あるいはそうしたくない地域の林業はなかなか辛いですよね。
(竹本吉輝さん)
どうして裏山の木で家をつくれないのか?
近藤 僕は登山やトレイルランニング(以下、トレラン)をするので山によく行くんですけど、ものすごい量の杉とか檜の人工林を見るたびに、「こんなに裏山に木が生えてるのになんで外国の材ばっかり家に使ってるんだろう」「この木を使って家をつくれないのか?」とずっと思ってました。
林業が成り立ってないので山は荒れ放題で、台風になったらすぐに倒れるような細い木がいっぱい生えていて、実際台風の度にドワーッとなぎ倒されて、登山道がすぐに倒木で塞がれて・・・それをみんながボランティアで木を切ってなんとか通れるように戻して、ということ繰り返している。山が荒れている様子を見ると、なんでこれを使えないのかと思います。
竹本 結局、みんなその土地の林業に無関心だからそうなってしまう。おっしゃったように、木がその場で倒れることもありますが、集中豪雨になると土砂と一緒に流れ出てしまうんです。そうすると濁流となって、川にかかってる橋の橋桁にどんどん木が重なってくる。その木が重なったところに土が一緒に重なっていくので、皮肉にも構造上しっかりとしたダムらしきものができる。それがいわゆる「自然ダム」です。そしてその負荷に耐えられなくなった橋が壊れる、その現状復帰のための土木費用は、それこそ林業に補助金をつけてなんとか成り立たせるために必要な金額と桁が違います。社会コストってなんなんだろうって思いますが、でも残念ながら橋の復旧に土木費用をかけるほうがGDPは上がるんですよね。
三島 業者にお金がいくわけですね。
竹本 橋の復旧をするよりもせっせと森をサスティナブルにするほうが、社会コストも安くて済み、生態系にも人の精神にも圧倒的にいい。・・・はずなんですけど、やっぱりGDPに現れないので・・・
三島 GDPを指標においてるかぎり、地域循環の実現は遠くなる。重要な視点ですね。
山がおいしそう!
三島 近藤さんは、「物件ファン」というサイトを経営されながら、最近は、いま話があったようにトレランを熱心にされてますよね。どういう流れでそうなったのでしょう?
近藤 もともと「はてな」という会社で、インターネットのなかにブログのサービスやコミュニティをつくって、人が集まったり表現をしたりできるような場をつくる仕事をやってきました。基本パソコンに向かってキーボードをたたく仕事を15年近くしてきたわけです。ちょっと一区切りついて、はてなを出ることになったときに、まぁちょっと疲れたのかな(笑)。
もともと田舎育ちで、子どもの頃から体を動かすのが大好きだったので、15年もパソコンの前にいる生活は体がもう限界で。オフィスビルの中に閉じこもることとは反対のことをやって中和しようとしたのかもしれない。
それで、最初にやったのが、登山でした。昔、登山部に入っていたので、ひさしぶりに行ってみようと思って。そうしたら、山で走ってる人たちがいたんですよ。しかも短パン半袖で走っていて、女の人でも「○○キロ走ってきました!」っていう人がたくさんいた。「なんなんだこの人たちは!」と思ったんです。それがトレランとの出会いです。
昔から登山をやっている人には、「山は走るもんじゃない」「山は登山靴で長ズボン履いて予備の食料を持って入るもので、そんな軽装で入るのはけしからん!」みたいな方もいるんですけど、トレランは普通の登山の3倍くらいの距離をいけるんです。それで僕は、「3倍も山いけたら最高やん!」「僕も走る!」という感じで、トレランを始めました。
竹本 どれだけ抑圧されていたのかが伝わりますね(笑)。
近藤 道具も進化してるんですよ。軽いのに丈夫な靴とか、走りやすいけど揺れないザックとか、技術の進化でのおかげで昔はできなかったようなスポーツが生まれている。トレランは自然を楽しむという山の要素と、人間の技術の進化の両方があってできてるスポーツです。20年前に山へ行っていたときにはなかったものがあることで、できるようになったことがあるのはおもしろいですよね。
三島 ドローン飛ばして映像を撮られてましたね。
近藤 そうでしたね(笑)。自然も好きなんですけど、新しい技術も大好きなので、それらが融合して、いままでできなかったことができるようになるところが個人的には好きです。
それでだんだんやってるうちに人の行ってない道を行くようになりました。
竹本さんが日本の7割が山とおっしゃいましたけど、道路は山の間の谷とか峠道とか、面積でいえば本当に一部に通っているだけ。自転車や車だったらそこしか行けないけど、山を走り出したら、言ってみればどこにでも行けるので、道のないところまで含めたら絶対に行きつくせないんですよ。京都の近くでも知らない道だらけ。
以前自転車に乗ってたときは、だいたい行き尽くしたなと思ってたのに、トレランを始めたら「知らない道ばっかりやん!」となりました。そこらじゅう地図見て塗りつぶすようにブワーっと走っていますね。Googleマップで衛星写真を見て、いっぱい山がつながってるところを見ると、すごくおいしそうに見えるんです(笑)。
竹本 すごいですね(笑)。
道路を通らずに京都から三重へ
近藤 今京都に住んでるんですけど、実家が三重なので、できるだけ山を通って道路を通らずに、三重の実家まで帰省してみようと思いたった。
竹本 甲賀の国から伊賀の国へ・・・忍者の世界ですね。
近藤 本当に忍者でした。伊賀甲賀とか通って、最後に鈴鹿山脈を通って、菰野町の実家に帰ったんです。それをブログに書いたら、選手としてはぜんぜん有名でもなんでもないのに話題になって、雑誌の記事にまでなりました。あんまり道のないところを行く人っていないんだなと思いましたね。
三島 それは、トレランなのですか?
近藤 走ってもいなかったですし、藪の中を藪漕ぎしてるときなんかは、トレランではないです。でもこれが話題になって、「私もその道を行きたいです」とかって、そのコースを・・・
竹本 ・・・近藤コース・・・?
近藤 そうですね(笑)。複数の人が行ってくれるようになりました。それで、滋賀の南までだけだったトレランコースを、滋賀の北回りもつなげて一周できるようにしようと思ったんです。地図見てだいたいのルートを決めて「8日あったら行けるやろ」と思って休みを取って行ってみたら、全然たどり着けなかったんですけど。北側は道がなさすぎるうえ、熊もいるし。
竹本 それ、ちゃんといまここにいるからよかったですけど、普通に遭難してるみたいな話ですよ。
(近藤淳也さん)
近藤 ぜんぜん進まなくてびっくりしました。8日かけても伊吹山までしか行けない。それで一回帰ってきて、次の週末に最後の鈴鹿山脈まで行って、なんとか一周つながったんですよ。そしたら、それを見てた人たちがいて「このコース、ちゃんと整備して大会とかしませんか?」と盛り上がりはじめました。そして「滋賀一周トレイル」というNPO法人を始めて、滋賀県の県境を結ぶトレイルを整備して、大会をやることにまでなりました。今年のゴールデンウィークに第一回大会がありました。ルールが8日以内で完走で、その前後もあるので出場するために10日間くらいは休みを取らないといけない。何人ぐらい集まるのかな、と思ってたんですが、60人ぐらいから応募がありました。
竹本 すごいですね(笑)。
近藤 僕が興味あるのは、「なんでみんな山に来るか」じゃなくて、言い方は悪いけど「なにから逃げて山に来たのか」ということなんです。実は本質はそっちなんじゃないかなと。山が好きだから来てるというよりも、なにかから逃れてるんじゃないかなと思ってしまいますね。かつての自分を思い出して。
***
三島 ありがとうございました。お二人からそれぞれがされていることのお話を伺いましたけど、見事に「一冊取引所」に結びつきましたね!
竹本 えっ、つながりました!?
(森林、トレラン、一冊取引所、そのつながりについては後編へつづきます)
編集部からのお知らせ
『ちゃぶ台9』イベント続々!
【5/27(土)】「〈共有地〉としての本屋から見える未来」(ポルベニールブックストアさん配信イベント)
*Seesaw Books・汽水空港・ポルベニールブックストア
3人の店主によるクロストークイベント*
・日時 2022年5月28日(土) 19:30~21:00(オンライン配信、終了後2週間程度、アーカイブ視聴も可能です。 )
・出演
神 輝哉さん-Seesaw Books/シーソーブックス(札幌市)
モリテツヤさん -汽水空港(鳥取県湯梨浜町)
金野 典彦-ポルベニールブックストア(鎌倉市大船)
・参加費 1300円(税込)
この特集(『ちゃぶ台9』の「書店、再び共有地」)で当店も取材して頂き、記事が掲載されます。当店は、特にコロナ禍になってからこの店を、家でも職場でもない街のサードプレイス的な場所として機能するよう、「読書懇親会」「雑談懇親会」などのイベントを何度も実施してきています。
では他のお店はどのような〈共有地〉的な活動をしているのか?記事では語り切れなかったことやその背景などを、直接店主の方に聞いてみよう――10店全部は無理ですが、当店と背景が近いと感じた2店を加えた3店の店主によるトークイベントを実施します。
〈共有地〉的な活動をやることになった背景から活動の具体的内容、見えてきたもの、そしてその先まで――〈共有地〉たる本屋のありようについて、縦横無尽に語り合いたく思います。(ポルベニールブックストアさんイベント紹介ページより)
【6/16(木) 書店イベント&MSLive!配信】平川克美さん出演「今日から共有地」@誠光社(京都)
開催日時 6月16日(木) 19:00〜20:30
場所 誠光社
京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町437
出演者 平川克美さん&三島邦弘(ミシマ社・「ちゃぶ台」編集長)
※受付開始次第SNSなどで告知いたします
5月27日(金)に書店先行発売日をむかえる『ちゃぶ台9』。特集「書店、再び共有地」は、平川克美さんの『共有地をつくる』の刊行がきっかけでした。
「国家のものでもないし、「私」のものでもない」、「自分一人で生きてゆくのではなく、かといって誰かにもたれかかって生きているわけでもない」場所。たとえば、喫茶店、銭湯、居酒屋、そして書店・・・もちろん、これ以外にも、「共有地」はまだまだあるし、求められています。今回「ちゃぶ台」で共有地の今を追った三島と、日々、「隣町珈琲」という共有地で過ごす平川さんが、「これからの共有地」を語り合います。
共有地をつくりたい人も、共有地がほしい人も、すでに共有地をつくっている人も、なんとなく共有地に興味がある人もーー。
福岡・うなぎBOOKSさん(『ちゃぶ台9』で取材させていただきました!)と、埼玉のpelekas bookさんでも、現在『ちゃぶ台9』連動イベントを企画中です! 決定次第ご案内いたします。