第180回
ここだけの! 韓国・UU出版社さんインタビュー(後編)
2024.09.03更新
2024年6月、ミシマ社代表・三島の著書『ここだけのごあいさつ』(2023年5月刊、ちいさいミシマ社)の韓国語版が刊行されました!
左が日本語版、右が韓国語版
韓国語版タイトルは、『おもしろいことをやっていればどうにかこうにか回るーー小さな会社が持続可能に働く方法』(朴東燮/訳)。
刊行してくださったのは、UU出版社(유유출판사、ユユ出版社)さんです。
UU出版社のみなさんと過ごし、その仕事ぶりを知れば知るほど、とっても個性的で、ゴキゲンで、チームワークも抜群な会社であることがわかってきました。おなじ小さな出版社として、学ぶこと、共有できることがあまりに多く、ミシマ社とUUさんが出会えたのは運命だったんだ、と思ってしまうほど。
UUさんは、どんなふうに働いて、どんな本を作り、届けているんですか? 海を超えて取材しました! 本日は後編をお届けします。
<取材したUU出版社のみなさん>
ジョン・ミニョン(전민영) 営業。マーケティングチーム長
サゴン・ヨン(사공영) 編集者。編集チーム長
イン・スー(인수) 『おもしろいことをやっていればどうにかこうにか回る』の担当編集者
ジョン・ミンギ(정민기) 編集者。今年UU出版社に入社
(まとめ 角智春)
韓国の編集者ならみんな持っている本
――UU出版社には、『私の文章はそんなに変ですか? 내 문장이 그렇게 이상한가요?』(2016年1月刊)という大ヒット作があるそうですね。なんと累計10万部超で「韓国の編集者ならみんな持っている本」だとか! どんな本なのでしょうか?
ヨン 韓国語で文章を書く人、文章を書きたいと思っているすべての人を助ける本です。日本でもそうかもしれませんが、韓国には、本をあまり読まなくても「文章をうまく書きたい」と思っている人が本当に多いんです。文章の勉強を十分にせずに良い文章を書くことは難しいですが、その勉強は誰にとっても簡単なことではありません。
『私の文章はそんなに変ですか?』著者のキム・ジョンソン先生は、30年以上のキャリアがある校正者です。少し手を加えるだけでぎこちない文章を良くする秘訣を知っていて、「文章修理工」というニックネームがあるほどなんですよ。
この本は、その秘訣がコンパクトな分量にすべてまとめられていて、今も韓国の学校、マスコミ、出版社などで必読書にされています。
――すごいですね・・・。日本の読者に読んでもらいたいUUさんの本もあれば、ぜひ教えてください。
ミニョン 『世界観の作り方(세계관 만드는 법)』(2023年7月刊)をおすすめします。これは、さまざまな分野のコンテンツで使われる「世界観」というものの存在に光を当てる本です。
著者のイ・ジヒャンさんは、作家と共同で物語を作るストーリープロダクションの主任プロデューサーを務め、いま韓国でユーザー数第1位を誇る読書プラットフォームで働いています。イさんは本書で、「世界観」という曖昧な概念について、また、コンテンツを企画するときに世界観を構築していく方法について、丁寧に解説しています。
芸能から、ウェブトゥーン、ゲーム、ユーチューブ、文学まで、人気コンテンツにおける世界観の構造、設定方法、企画意図などを教えてくれます。コンテンツ制作者にとっては、世界観が、物語そのものだけではなくて、マーケティングやブランディングでどれほど重要な役割を果たしているかを知ることができますし、コンテンツを楽しむ側にとっても、自分の好きな作品や商品の背後にどんな世界観があるのか、くわしく知ることができます。
日本での翻訳が決定しているので、もうすぐ日本語版をお読みいただけますよ。
ヨン 私は、今まさに作っている本をおすすめします!
タイトルは未定ですが、内田樹先生が「僕にとって最初の『韓国語オリジナル本』」とおっしゃっている本です。
この本は、韓国の出版社が企画して、内田先生と直接契約したはじめての本です。内田先生は本当に素晴らしい書き手で、UUのメンバーはみんな大好きなのですが、韓国の20~30代の読者にはあまり知られていません。こんなに素晴らしい方を私たちだけが好きなのはとても残念で、もっと多くの読者に先生の文章や考えを伝える本を作りたかったんです。
そこで、内田先生の本を最も多く韓国語に翻訳している朴東燮先生と一緒に、先生への質問を20~30個ほどつくり、それに答えていただく形で原稿を書きました。
私たちはごく普通の質問をしたつもりでしたが、先生は「こういう質問は今まで日本のメディアからは受けたことがありません。今まで考えたことのないことを考えるきっかけになりました」とおっしゃってくださり、とても素敵な答えをたくさんいただきました。それだけに、日本の内田樹読者のみなさんにも、ぜひ本書を届けたいと思っています。
UUさんのオフィスにある、自社本の本棚
集中力が切れそうになったら、畑に行ってきます
――普段の、1日の仕事の流れを教えて下さい。
ミニョン まず、主要書店の販売管理システムにアクセスして、過去1日に本(特に新刊や主力書籍)がどれだけ売れたか、注文がどれくらいあるかを確認します。また、ネット書店のサイトでどんな本を紹介しているか、どんな本に読者の反応があるか、全体的に見てまわることからはじめます。それから、いま力を入れている本(やはり新刊ですね)のマーケティングの状況をチェックします。
毎日同じ流れではありませんが、おもに午前中にこういった業務を整理したあと、午後は、もうすぐ刊行する本の販促アイディアを考えたり、実行したりします。発刊日が近づく頃には、書店の担当者を訪ねて、販促案を共有して、納品部数を話し合います。
びっくりするほど整理された、きれいなオフィス
スー 出社したら、まずメールをチェックします。すぐに解決できる問い合わせであれば、すぐに返信します。それと、私はUUのツイッター担当なので、新刊や主な書籍タイトルを検索して、読者の反応をリツイートします。
残りの日課は、ほとんどの編集者と同じだと思います。作家の先生方に原稿の進捗状況を確認したり、校正ゲラを見たり、新しくはじまる書籍制作のスケジュールを立てたりします。
途中で集中力が切れそうになったら、ちょっと畑に行ってきます。ときどき出勤する子犬のメミル君(ミニョンさんの愛犬で、メミルは「蕎麦」という意味です)を撫でたりもしています。
――オフィスに大きな畑があるのがうらやましいです。どうして会社で畑をやろうと思ったんですか?
スー たまたま会社の隣の土地が空いていたので、「じゃあ私、農業やってみます!」って言ったんです。農業に特別な思い入れがあったというよりは、本を作る以外の「なにか別のこと」がやりたかったんですね。試験勉強のときって、部屋の掃除が一番楽しかったりするじゃないですか。畑を耕すのも同じような感じでした。
やってるうちに、楽しくて愛着が湧いてきて、やりがいも感じるようになりました。だんだん収穫できるようになると、たしかにスーパーに行く回数も減って。形がバラバラで虫食いもありますが、新鮮でおいしいので、私の夏の食卓は畑のもので占められてます。最近は暑い日が続いているので、なかなか手入れができないのが残念です。
広い畑!
とにかく実物を見せる、提案をいくつか用意する
――営業さんは、どうやって書店に本の紹介・提案をしているんですか?
ミニョン 本の性質や、各書店の性質、さらには分野の担当者によって方法は変わってきますが、私はとにかく実物を見せることを大事にしています。
本の魅力を十分に感じられるような部分(本文)を担当者に読んでもらうこともありますし、懸念点もどうしても見つかってしまいますから、そこは正直に共有して、補完できるようなアイデアを考えたり、また、出版社としてどんな対策を立てているのかも伝えます。
それから、書店が求めていそうな「限定」の素材をあらかじめ頭の中でいくつか用意して、提案します。たとえば、その書店と連携したSNS広告、限定ブックトーク、特典などです。担当者の好みを把握しておいて、状況に応じて提案します。
――本屋さんに本を置いてもらう以外に、読者にはどうにはたらきかけていますか?
ミニョン UUは、読者とのやりとりを大切にして、密におこなっている出版社だと思います。SNSにアップされる読者の感想や本の写真を見逃さずに再投稿したり、返信したりして、コミュニケーションをとっています。また、(それぞれの新刊について)リアルイベントは1回以上企画するようにしています。
書店だけでなく、本とはまったく関係ないような企業とのコラボレーションも積極的に行っています。最近は、スチール製家具の会社「rareraw」とコラボレーションもおこないました。
営業のミニョンさん(右)。三島の本についても「売れないわけありません!」と力強く言ってくださりました。
一緒になって、早く共有して、早く解決しよう!
――UUさんはたった5人で仕事をされています。ミシマ社もちいさな会社なので、少人数でうまく連携するコツ、良い仕事をするコツがあったら、ぜひ教えてください!
ミニョン スケジュールや変更事項については緊密に連絡を取り合い、相談するようにしています。お互いに仕事を任せずそれぞれ自分でやることが多いですが、ときには、5人のなかで一番得意な人、早い人に頼んで効率を上げています。5人の特徴をお互いに理解しているからこそできることだと思います。
スー 少人数で連携する秘訣は・・・会話をたくさんするようにしていることですね。仕事や本に関係なくても、趣味の話や、最近経験したこと、プライベートな話まで、いろいろな話をします。ほかの出版社に勤めている友人の話を聞くと、そうでない会社も多いので、これが私たちの秘訣かもしれません。
ミンギ 連携するときに何よりも大切なのは「共有」だと思います。同じ仕事に関わる仲間が、それぞれの仕事や計画を整理できるように、仕事の進行状況や流れを共有することが大切です。UUは少人数だから、円滑に、より自由にコミュニケーションができるような気がします。もっと重要なのは、そうやって気兼ねなく共有できるように、余計な気遣いをすることなく、リラックスしてコミュニケーションできる雰囲気をつくることだと思います。
また、人数が少ないからこそ、それぞれの好みや考えをより柔軟に聞けるような気がします。私はUUで働くことで、より自然な「私」として仕事ができている感じがあります。仕事と生活の境界をはっきりと分けることなく、楽しんで働けているからだと思いますね。連携の土台に、ある種の「相互理解」があれば、よりがんばれるんだなと感じます。
ヨン 前の会社で働いていたときは、会社には分業が必要で「私は編集者だから、編集をうまくやるのが第一」という考えを持っていました。でも、UUで働くようになってからは、「編集者の仕事に境界はない」と思うようになりました。編集者がすべての業務をやらなければならないという意味ではなく、作家と読者のあいだ、出版社と読者のあいだでできることは本当にたくさんあって、それを「編集者の仕事じゃない」と思って拒否することは、誰のためにもならないと思うようになったということです。本にも、著者にも、出版社にも、編集者自身にとっても。
UUで働くようになって、毎朝書店で本の売れ行きをチェックしたり、倉庫の在庫を確認したり、ベストセラーや新刊の動向を見たり、営業と一緒に宣伝方法を考えたりしながら、同時に新しい本を企画・編集することが当たり前のようになりました。すべてが必要で、疎かにできない仕事なので、早く、手際よくやろうと努めています。
今はUUのメンバーのほとんどがそんな気持ちで働いていると思います。自分の仕事と誰かの仕事を分けずに、一緒になって、早く共有して、早く問題を解決しよう! という気持ちで。 秘訣というのはないような気もするのですが、あえて言うと、たぶんこの姿勢が秘訣なのではないでしょうか。
――ありがとうございました。最後のみなさんの言葉には、本当にじーんときてしまいました・・・。
海を超えて、UUのみなさんと出会えたことをうれしく思います。これからも、「ちいさなおもしろい出版社」として、いろいろなお仕事をご一緒できたらと願っています!
(おわり)