第180回
ここだけの! 韓国・UU出版社さんインタビュー(前編)
2024.08.30更新
2024年6月、ミシマ社代表・三島の著書『ここだけのごあいさつ』(2023年5月刊、ちいさいミシマ社)の韓国語版が刊行されました!
左が日本語版、右が韓国語版
韓国語版タイトルは、『おもしろいことをやっていればどうにかこうにか回るーー小さな会社が持続可能に働く方法』(朴東燮/訳)。
刊行してくださったのは、UU出版社(유유출판사、ユユ出版社)さんです。
ミシマ社とUU出版社との出会いは、2023年9月。韓国・坡州出版都市(パジュ・ブックシティ)で開催された「パジュ・エディター・スクール」で三島が講演し、そこにUU出版社のメンバーが参加くださったことがきっかけでした。
韓国にもちいさい素敵な出版社があり、温かい人たちが働いているんだなぁ~、と知った矢先、なんとそのUUさんから、「『ここだけのごあいさつ』を翻訳したい」とオファーが届いたのでした。
無事に韓国語版が出版され、刊行記念イベントを行うため、今年7月に三島と一部のメンバーが再び韓国を訪問。UUさんとうれしい再会を果たしたのですが・・・。
みなさんと過ごし、その仕事ぶりを知れば知るほど、あらためて、UU出版社がとっても個性的で、ゴキゲンで、チームワークも抜群なことがわかってきました。ひとりひとりの動きから、おもしろさが滲みでている・・・。おなじ小さな出版社として、学ぶこと、共有できることがあまりに多く、ミシマ社とUUさんが出会えたのは運命だったんだ、と思ってしまうほどでした。
UUさんは、どんなふうに働いて、どんな本を作り、届けているんですか? 海を超えて取材しました!
<取材したUU出版社のみなさん>
ジョン・ミニョン(전민영) 営業。マーケティングチーム長
サゴン・ヨン(사공영) 編集者。編集チーム長
イン・スー(인수) 『おもしろいことをやっていればどうにかこうにか回る』の担当編集者
ジョン・ミンギ(정민기) 編集者。今年UU出版社に入社
(まとめ 角智春)
モットーは「小さく、楽しく、しっかり!」
――UU出版社が創業したのはいつですか?
ヨン 2012年1月に最初の本を出しました。当時は代表のジョ・ソンウンが立ち上げた一人出版社でした。UUを設立する前、代表はいくつかの出版社で編集者として働いていました。現在の社員数は5人。代表1人、営業1人、編集者3人です。
UU出版社のオフィス。坡州出版都市のなかにあります。
ヨン 「読者の学びを助ける本をつくる」、これが私たちのキャッチフレーズです。おもに大人向けの人文系の教養書をつくっていて、2019年頃からはエッセイも定期的に刊行しています。
本をつくるときには「読者」を重視しています。いま韓国の読者がどんな「学び」に興味を持っているのか、私たちが本を通して伝えられる「学び」がなんなのか。それをつねに考えています。
1年に本を1冊も読まないような人というよりは、本をいつも読む人のことを考えてつくっているので、持ち運びしやすいようにサイズを小さく、重さを軽くするようにしています。本を読みつづける人は環境にも関心が高いと思いますから、再生紙を使うようにしています。「小さく、楽しく、しっかり!」がモットーなんです。
『おもしろいことをやっていればどうにかこうにか回る』の裏表紙にも、「再生紙」マークが
――先日、ヨンさんから「韓国では出版の仕事に携わる人が少なくて、ふつうに生活していても編集者と知り合うことはほとんどないと思います」と聞いておどろきました。みなさんは、どうして出版社で働くことになったんですか?
ミニョン 大学を卒業する頃、私の友人のほとんどは、大企業、とくに金融業界への就職をめざしたり、公務員試験の準備をしたりしていました。でも私はなぜか、彼らとの競争に加わりたくなかったんです。かわりに、「自分がやりたいこと」に焦点を当てて就職先を探しました。小さな会社でも、自分が主体的に働くことができる仕事であればいいなと思っていて、そのひとつが出版社の編集者の仕事でした。
今は営業として働いていますが、最初は編集者だったんです。編集者として働いているうちに、本を「届ける」仕事も大切だと思ったのと、自分の性格はマーケティングや営業のほうが向いていると判断して、5年目ぐらいに職種を変えました。今はその判断は間違っていなかったと感じて、楽しく働いています。
スー 私は特別な理由はなく、「本を読むのは好きだけど、どんな人が作るんだろう」と思ったのがきっかけです。韓国語の勉強が好きで、国文学を専攻していたので、(本づくりを)やってみてもいいかなと思いました。
韓国には出版の専門職を養成する「ソウル出版予備学校」(Seoul Book Institute=SBI)という教育機関があって、助けられました。ここの教育課程を修了して出版社で働きはじめ、6年目になります。
ミンギ 私は今年の8月からUUで働くことになった、新人編集者です。前の出版社で2年ほど働いたのち、UUに入りました!
私はたまたま、ある出版社の詩の創作講座に参加したときに、そこの編集者に出会って、出版業界にも仕事があるんだなと実感しました。偶然ですが、その方と私の服装がかなり似ていたので、なんだか安心感と親近感も覚えました。その後、読むこと、書くことを仕事にできないかと思い、編集者として働くことになりました。
ヨン 私は大学で英文学と法学を専攻したのですが、卒業するまで、出版社に就職するなんて考えたこともありませんでした。本が嫌いなわけではなかったけれど、読書量がとくに多いわけでもなく、本よりも法律や経済や社会問題に興味があったからです。卒業直後に願書を出した会社の中で、出版社は一社もありませんでした。
でも、大学生のとき、1、2週間に1回くらい読書会に参加していたんですね。メンバーはほとんど社会人で、大学生は2、3人しかいませんでした。その会で出会った年上の友人が、私に出版社への就職を勧めてくれました。私の性格や好みと合っているんじゃないかと。
そこで、出版の専門家を養成する民間機関に行きました (SBIではありません)。2ヶ月ほどかけて、編集者がどんな仕事なのかということを知れて、おもしろい仕事だと確信しました。翌月、はじめて出版社に入社願書を出し、すぐに合格。やってみたら本当に楽しい仕事で、10年間楽しく働いています。当時の仲間たちに感謝していて、その読書会は今もつづけています。
――韓国には出版を専門的に学べる学校があるんですね!
「小さくてきっちりした機械」に乗っている感覚
――UUさんがほかの出版社とちがうのは、どんなところだと思いますか?
ミニョン すべての出版社というわけではありませんが、いわゆる「大ヒット」を期待して、売れる本だけを企画・刊行する出版社は少なくありません。たくさん売るためにたくさん資本を投資する会社もあります。
もちろん、私たちUUも販売部数を増やす努力をしないわけではないですが、本を作って出版すること自体に喜びをもっている会社だと思います。 世の中に必要な、価値のある本だと思ったら、部数があまり期待できなくても出版することもあります。
スー UUは小さな会社で、少ない人数で家族のように働いているので、コミュニケーションが密で早いのが強みだと思います。いつでも気楽に会話できる雰囲気ができていて、忙しくても楽しく働ける原動力にもなっています。突発的な状況にも素早く対応できます。
ちなみに、私にとって代表のジョは「親戚のおじさん」みたいな存在なのですが、ほかの出版社では代表におじさんのように接することは、たぶん難しいんじゃないでしょうか。
ミンギ 私はまだ本当に短い期間しか働いていませんが、まず働く雰囲気がほかとは少しちがうと思います。 以前、大手出版社で働いていたときは、「大きくてゆるい機械」に乗っているような感覚でしたが、UUでは「小さくてきっちりした機械」に乗っているような感覚があります。余計な余白がなく、きちんと整備されている雰囲気です。自由に意見を出し合える、リラックスした雰囲気も感じます。
その働き方は、そのままUUの本にも表れていると思います。「小さくて、しっかりしていて、楽しい」。こういうふうに明確で安定した仕事をして、それに合った本を出しているから、読者にも「UU」というブランドを印象づけることができているのだと思います。
それと、UUには「編集者」を対象読者にした本が多いせいか、私にとっては「出版人のための出版社」のようなイメージもあります。いずれにしても、どの出版社よりも独自のカラーをうまく表現し、発信してきている会社だと思います。
UUさんは韓国の敏腕編集者の本をたくさん出しています。
左:イ・ヨンシル著『エッセイのつくり方』、右:キム・ボヒ著『最初の本のつくり方』
UUという出版社を信頼し、好きになってくれる読者がいる
ヨン UUで働く前は、特定の本や作家ではなく「特定の出版社が好き」という感覚を少し不思議に感じていました。本を選ぶときは、出版社ではなく、タイトルや内容、著者をみていたので。
でも、ここで働いてみて、読者の方たちはUUの本自体も好きだけど、UUという出版社を信頼してくれている、好きになってくれているんだなと感じるようになったんです。UUの本が本当に自分の勉強に役立つと思ってくれて、UUの本ならなんでも歓迎してくれる本屋さんも多いと感じました。最初はそれに違和感があったのですが、少しずつ慣れてきましたね。
だから、入社してからの6年間、本をつくることだけではなくて、読者と直接コミュニケーションするための道も切り開いてきました。
たとえば、ニュースレターを開設して、仕事で経験した楽しいことや、出会った素敵な人たちについて伝えたり、読者コミュニティ「UU堂(유유당)」をつくって、書店にまだ紹介されていない新刊情報をいち早く届けたり、編集者から手紙を書いたり、著者のスペシャルブックトークなどを開催したりしました。「UU堂」は、ミシマ社サポーター(*注)ほど規模は大きくないですが、3、4年ほど続けていて、そうやって読者に直接本を届けるなかで学んだことがたくさんあります(今は韓国のほかの出版社もやっていますが、UUは少し早くやりはじめました)。
韓国のほかの出版社は、UUを「出版の仕事をしている人が好きな出版社」「おもしろいことをよくする出版社」と思ってくださっているようです。
*編集部注:ミシマ社サポーターの人数は、毎年約200~300名。詳細はこちらをご覧ください。
UUさんのニュースレターでミシマ社も紹介いただきました!
――そんなUUさんに『ここだけのごあいさつ』の翻訳を出していただき、本当にうれしいです。本書をはじめて読んだときは、率直にどう思いましたか・・・?
スー ミシマ社がサポーターさんたちとこれほどしっかりした信頼関係を築いていることが不思議でした。サポーターさんと積み重ねてきた時間が仕事にもすごく役に立っているようでうらやましいです!
ただ、韓国の読者にとっては、見知らぬ会社の見知らぬ取り組みなので、どうやって紹介したらいいのか悩みました。『ここだけのごあいさつ』は代表の三島さんがサポーターに向けて書いた手紙がもとになっていて、文章からは固い絆を感じたのですが、韓国の読者には「いい話だけど、私たちには当てはまらないのでは・・・」と思われるんじゃないかと少し心配だったんです。だから、彼らが取り残されないように工夫しました。
「隣の国でこんなおもしろいことを長い間やっている人がいるので、みなさんも興味をもってみてください。韓国の状況にもきっと活かせるはずです」と読者に話しかけるようなアプローチをしようと思って制作しました。
(後編につづく)