第16回
『みゃーこ湯のトタンくん』刊行記念・スケラッコさんインタビュー(前編)
2021.12.24更新
12月10日に発刊となった、スケラッコさんによる銭湯ネコマンガ『みゃーこ湯のトタンくん』。Web連載時から「かわいすぎる」「銭湯に行きたくなる」と話題でしたが、満を辞して書籍化! 描き下ろしも盛りだくさんな一冊になりました(1〜4話試し読みはこちら)。
記憶をなくした青年・ハラが目を覚ますと、そこはネコの街。銭湯「みゃーこ湯」を営むトタンに拾われて、銭湯見習いをすることになるハラと、店主・トタン、そしてみゃーこ湯の常連さん(みんなネコ)との日々の物語は、寒〜い冬の日をほっとあたためてくれること間違いなし。
滋賀県・膳所にある銭湯「都湯」が監修を担当しているので、銭湯の水って毎日入れ替えてるの? 番台に立つ以外は何しているの? という「銭湯のお仕事」も読んでいるうちに学べます(都湯は「みゃーこ湯」のモデルでもあります)。
本作を描くにあたっての裏側や、作品について、著者のスケラッコさんにお話を伺いました。
(構成:新居未希)
きっかけは忘年会!
――『みゃーこ湯のトタンくん』、おかげさまでとても素敵な本になりました。12月15日からは青山ブックセンターで展示がはじまりましたが、その冒頭にスケラッコさんが「みゃーこ湯のトタンくんはこうしてうまれた」という漫画を描いてくださっていて。さかのぼること2019年、スケラッコさんがミシマ社の忘年会に来てくださったのがはじまりだったんですよね。
モデルであり、監修もつとめてくださった都湯は膳所(滋賀)にあります。写真提供:都湯
スケラッコ そうですね、そこで都湯の原さんとはじめてお会いし、(担当編集を含めた)3人でネコの話になり・・・
――スケラッコさんは、その当時から都湯のことはご存知でしたか?
スケラッコ 梅湯(京都・五条楽園の銭湯)にはもともとたまに行っていたんですが、梅湯を運営している「ゆとなみ社」がやる銭湯が滋賀にもできると梅湯の壁新聞で読んだんです。2店舗目が出ます、みたいな。それが都湯さんだったんですけど、行ってみたいとは思いつつ、そのときはまだ行けてなかったという状態でした。
――銭湯はもともとよく行かれてたんですか?
スケラッコ 銭湯にはわりと行っていましたね。数年前からかな。会社を辞めてフリーランスになって、お風呂に行きやすくなってからよく行くようになりました。べつに会社で働いてても行けるんですけどね(笑)。家の近くにけっこう銭湯があるので、ふらっと入りに行くことが多いです。肩こりが酷かったので、銭湯に行ったら治るかなって。治らないんですけど(笑)。でもゆっくりできるのはいいなと思ったんです。行き出すまではすこし躊躇するというか、ちょっと面倒くさい気持ちはあったんですが、行き慣れると「また行きたい!」と思うようになりました。
近くに1軒よく行っていた銭湯があったんですけど、そこが廃業されて「あああぁーー」って気持ちでいたんですよね。それで銭湯に興味を持っていたところもあります。その銭湯はボイラーを故障されて、そのまま廃業されたようだったんですが、じゃぁボイラーひとつ直すのにどれくらいかかるのかなと気になったり。
――なるほど、それが『みゃーこ湯のトタンくん』に繋がっていくわけですね。
銭湯の再現は3DモデルとSNSで
――今回、銭湯を描くにあたって、3Dモデルまで作ってくださったんですよね。
スケラッコ 作りました。これがないと絶対描けなかったです。
(図)こちらがその3Dモデル。
――3Dモデルはどの漫画を描くときも作られるんですか?
スケラッコ 『バー・オクトパス』と『平太郎に怖いものはない』のときは作りました。お店ものは作っていますね。なくても描けるんですけど、考えるのに時間がかかっちゃって、あると便利かなと思って作っています。ちょっとだけできる技術を駆使して・・・!
――都湯には一緒に取材にも行かせてもらいましたが、マンガのなかでの銭湯のディテールの再現がハイパー細かくて震えました。
スケラッコ 取材や、取材時に撮った資料写真はもちろんとても参考にしましたが、「都湯Vlog」(都湯のYouTube)や、原さんが写真をたくさんSNSに載せてたのを見させてもらって、だいぶ助かりました。Instagramに開店前の写真をあげていたりするので、あれがなかったらきつかったかも。あまり載せないお店もありますもんね。煙突掃除も、動画で観たので描けた回です。・・・恐ろしい動画です。あれは登れない。(該当の動画はこちら)
ほかに本とかも読んだんですけど、本に書いてあるのは銭湯の歴史とかが多くて、お風呂の沸かし方とかはわからないんです(笑)。
――そうですよね(笑)。マンガを描いているなかで、銭湯について「これは!」と思われたことなどはありますか?
スケラッコ シンプルなんですけど、薪は廃材でいけるんだ、ということはびっくりしました(都湯では廃材を薪として使用)。ガスのところもありますけどね。廃材って、そんなに毎日火を焚けるほどあるのか、と。
『みゃーこ湯のトタンくん』本文、「みゃーこ湯の1日」より
――廃材が一番安くて、そこからさらに鉄屑をとって・・・とする一連の流れはびっくりでした。銭湯ってこういうふうに商いをまわしてるんだなぁと、お仕事マンガとしても楽しんでいただけると思います。
「どう描いてくれてもいいですよ」と言ってくれた
――今回、ハラさんとトタンくんは実在する人物(とネコ)をモデルにしていますし、「みゃーこ湯」も都湯がモデルです。ただ、実話を描いているわけではなく、モデルはあくまでモデルで、お話は創作。その辺りはどのように切り分けて考えていましたか?
スケラッコ これは(都湯の)原さんが「どう描いてくれてもいいですよ」と言ってくれたことが大きかったです。モデルになるんだし、どう描かれているかってやっぱり気になると思うんです。トタンくんも気にしているかもしれないですよね(笑)。そこはちょっと申し訳ないんですけど・・・。でも実在するというのはいつもの自分のマンガとは違うので、緊張はしていましたけど、途中からは漫画のキャラのように描いていく感じにはなりました。
――『みゃーこ湯』には、トタンくんとハラさんだけでなく、いろんなキャラクターが登場します。このキャラクターたちはどのように生まれたんでしょうか?
スケラッコ いろいろですが、サウナ3人組みたいな人は普通にいますよね、このあいだ都湯にいったときも、似た人たちがいた気がして。どこの銭湯に行っても、連れ立って来る若めの男性って見かける気がします。いつからかわからないけど、そういう文化はありますよね。
サウナ3人組。サウナが好きなご様子。(『みゃーこ湯のトタンくん』本文より)
――トタンくんのネコっぽさと人間っぽさのバランスが絶妙ですよね。
スケラッコ トタンくんはサイズ感を悩みました。ほかのネコはわりと人間サイズだったりするんですけど、トタンくんは小さいです。なんで? と思われる方ももしかしたらいるかと思うんですが、これはもう単純にネコっぽさを出したかったからです(笑)。
ネコの構造がようやくわかった
――スケラッコさんもネコを飼ってらっしゃるんですよね。ネコは、ずっと飼っていたんですか?
スケラッコ いや、その忘年会のときで家にきて8カ月くらいでした。当時、絵本『マツオとまいにちおまつりの町』を一緒にやっていた筒井さん(*)が「保護されている猫がいるんですが、飼ってみませんか?」とご紹介くださって。うちは動物を飼えないお家だったので、ダメだろうなと思いながら大家さんに聞いたら、いいよって言ってくれたんです。人生初ネコですね。都湯のトタンくんと同い年なんです。
(*筒井さん・・・ミシマ社刊の絵本『てがみがきたな きしししし』の編集も担当していただいてるフリーの絵本編集者)
――実際に「銭湯ネコマンガをやろう」という話になってから、「ネコの街に人間が1人」という設定が出てくるとは全然思っていなかったので、「なんと!」と驚きながらもわくわくしました。はじめの設定のとき、店主をトタンくん(ネコ)にするか、ハラさん(人間)にするか迷われていたかと思うんですが。
スケラッコ おもしろ要素というか、絵的にはネコの街、ネコがたくさん出てくるほうがいいなーと思いまして。なんというかネコのほうが、お風呂に入っているときとか、描いていてやりやすいですね。人も、いやらしい感じにしないようにはできると思うんですけど、生々しいといえばすこし生々しいような気もするので・・・まぁネコならいいのかという話ではあるんですけど。
――ネコをこんなにたくさん描かれたのは初めて・・・ですか?
スケラッコ そうですね、初めてです。個人的にスケッチで描いてはいたんですけど、マンガでは描いたことがありませんでした。もともとネコについてのことって全然詳しくなくて、家にネコが来てから、足がどうなっているのかとか、ネコの構造がようやくわかったんです。今でもネコをうまく描けるようになったとは全然思わないんですけど、奥深いものだと思っています。
――たくさんのネコが出てきますが、中でも描いていて楽しいネコはいますか?
スケラッコ このおじさんネコはけっこう好きです。描きやすいですね。トタンくんが一番描きにくかったかも。
いつものおじさん(『みゃーこ湯のトタンくん』本文より)
――トタンくんは最後まで全然安定しなかったとおっしゃってましたね。
スケラッコ トタンくんは本当に難しくて・・・今でも安定してないです(笑)。
トタンくんは目がクリクリ系だと思うんですが、細目系のネコもいて、私的には細目系のネコのほうが描きやすいんです。このパンのことばかり言っている三毛ネコは、実はうちのネコをモデルにしているんですけど、わりかし描きやすい。クリクリ系が難しいですね。
パン大好きな三毛猫(『みゃーこ湯のトタンくん』本文より)
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『みゃーこ湯のトタンくん』の展開や設定についての秘話や、スケラッコさんの作品全般のキャラクターについてなど、はじめてうかがうお話ばかりの後編へ続きます!
編集部からのお知らせ
『みゃーこ湯のトタンくん』原画展を青山ブックセンター(東京)で開催中! 今後も全国巡回予定です!
『みゃーこ湯のトタンくん』原画展を開催&巡回します。
情報はミシマ社ホームページにて随時更新します。
・開催第1弾
場所:青山ブックセンター本店(東京)
会期:2021年12月15日(水)〜2022年1月7日(木)
・開催第2弾《同時開催!》
場所:FOLK old bookstore(大阪)
会期:2022年1月10日(月祝)〜1月30日(日)
1月15日(土)14〜16時 スケラッコさん在廊予定です
場所:誠光社(京都)
会期:2022年1月16日(日)〜31日(月)
初日・1月16日(日)14〜16時 スケラッコさん在廊予定です
・開催第3弾
場所:スタンダードブックストア
会期:2022年2月3日(木)〜24日(金)
・開催第4弾
場所:TOUTEN BOOKSTORE(愛知)
会期:2022年3月8日(火)〜3月21日(月)
全国書店にてサイン本を販売中です!
全国の書店にて、『みゃーこ湯のトタンくん』のイラスト入りサイン本を販売中です。
※サイン本は数に限りがございます。一覧に記載のある店舗でも、すでに完売の場合もございます。最新の在庫状況は各書店さんへ直接お問い合わせください。