第17回
『みゃーこ湯のトタンくん』刊行記念・スケラッコさんインタビュー(後編)
2021.12.25更新
12月10日に発刊となった、スケラッコさんによる銭湯ネコマンガ『みゃーこ湯のトタンくん』。Web連載時から「かわいすぎる」「銭湯に行きたくなる」と話題でしたが、満を辞して書籍化! 描き下ろしも盛りだくさんな一冊になりました。
記憶をなくした青年・ハラが目を覚ますと、そこはネコの街。銭湯「みゃーこ湯」を営むトタンに拾われて、銭湯見習いをすることになるハラと、店主・トタン、そしてみゃーこ湯の常連さん(みんなネコ)との日々の物語は、寒〜い冬の日をほっとあたためてくれること間違いなし。
滋賀県・膳所にある銭湯「都湯」が監修を担当しているので、銭湯の水って毎日入れ替えてるの? 番台に立つ以外は何しているの? という「銭湯のお仕事」も読んでいるうちに学べます(都湯は「みゃーこ湯」のモデルでもあります)。
本作を描くにあたっての裏側や作品について、昨日公開の前編に引き続き、著者のスケラッコさんにお話を伺いました。
(構成:新居未希)
夢ってことにするか? といろいろ巡らせて
――ウェブでは15話までを掲載しましたが、本には+2回が掲載されています(ほかに番外編も描き下ろし)。この2話が本当に素晴らしくて、ここに繋がるんや・・・と感動して、原稿をいただいたとき涙が出ました。
スケラッコ 最初からこうしようと決めていたわけではなかったんですが、よかったです。たとえばトタンくんが人間の世界の銭湯の看板ネコだったら、こういう終わり方にはならないですよね。設定を「ネコの街の銭湯」にしちゃったから、前の世界があると設定した時点で、そのことを考えながらずっと描かなきゃいけなくなる。うーん、なかったことにするか? 夢ってことにするか? といろいろ巡らせて(笑)。
――夢オチにならなくてよかったです(笑)。
スケラッコ 最初の設定を送ったときは全然終わり方までは決められていなかったんですけど、たしかけっこう途中のころだったかな、「思いついたんです!!」と(編集担当に)メールをしましたよね(笑)。本1冊で完結させるとなると、あと何話描けるのか、残っているかがわかるから、そのなかでどうするかと考えていました。
――ページ数や話数がある程度決まっているなかで、物語をどうやって納めていくかは、難しくはなかったですか?
スケラッコ 逆に話数が決まっていないとどうなることやら・・・です。決まってなかったら、別の銭湯が出てきて、対決とかし出すと思う(笑)。話を作れないから、のばしのばしして。キャラがどんどん増えていって、トーナメント戦に・・・サウナバトルものみたいな(笑)。それはそれで面白いかもしれません。
生歌で踊る盆踊りが好き
――マンガには、盆踊りも登場します。スケラッコさん、盆踊りがお好きなんですよね。
スケラッコ そうなんです、コロナになってからここ数年はやっていないですけど。都湯さんは滋賀にある銭湯だから「江州音頭だ!」と思って・・・江州音頭が好きなので、これはチャンスだ! と描いちゃいました。
――スケラッコさんも踊られるんですか?
スケラッコ 踊ります、踊ります。滋賀にも盆踊りに一度行ったことがあって、琵琶湖沿いの広場というか駐車場のようなところで、夕方から盆踊りがあったんですけど、夕焼けのなかで踊る盆踊りがすっごく良かったです。
――盆踊りは、地元で盛んだったとかですか?
スケラッコ 地元は名古屋なんですが、とくになにか特徴づいたものはなくて、本当にスタンダードなやつでした。ドラえもん音頭とか(笑)。なのでとくべつ好きでも、なんでもなかったんですけど、関西に来てから好きになりました。関西って特有で、盆踊りが生歌なんですよね。たいていはテープをかけて踊るんですけど。江州音頭とか河内音頭は、音頭とりさんが歌いに来るというのが多いように思います。その生歌で踊るというのが好きなんです。
読み物全体でみると、人間だけではないものもよくある
――今回の『みゃーこ湯のトタンくん』はネコの街に人間が1人という設定だし、『バー・オクトパス』は海の中のバー、『盆の国』には人間は出てくるけれど、人間じゃないものもたくさん描かれます。スケラッコさんの作品には、いま生きている人間だけじゃない生き物たちがたくさん出てくると思うんですが、あまりはっきりと分けないところが魅力のひとつです。この感じはどこから出てきたんでしょうか?
スケラッコ でも、絵本の世界ってずっとそうじゃなかったですか? 大人が読むマンガになるとなぜか人だらけになるというのも変な感じで、あまり意識はしてないです。でも「絵本っぽい」とはよく言われるので、自分では意識していないけれど、そうなのかもしれない。いわゆる「大人向けの漫画」というと、人間模様を描くものが多いのかもしれないけれど、読み物全体でみると、人間だけではないものもよくあると思うんです。描いていて楽しいし、絵的に面白くなるというのもあるので、あまり人ばかり描いていてもつまんないなと。でも最近はマンガにもいろいろ増えましたよね。
――たしかに。増村十七さんの『バクちゃん』とか・・・バクですしね。
スケラッコ そうですよね。あと、たとえばムーミンとか、スヌーピーとか・・・すごい有名作と並べようとしていて申し訳ないんですけど(笑)。
「仕事をやめたら漫画を描く」ということは決めていた
――スケラッコさんは、もともと漫画家になろうと思われていたのですか?
スケラッコ 中学生の頃は漫画家になりたいと思っていたんですけど、よくある「ケーキ屋さんになりたい」っていうのと同じような漠然とした夢だったので、結局は大学を卒業してから就職をしたんですが、「仕事をやめて漫画を描こう」となんとなく思い始めまして。馬鹿にしているように思われたら嫌だけど、「漫画は描ける」と思っていたというか、漫画が一番向いているかもしれないと思っていました。自分にはお話があったほうがいいような気がして。あと、コマがふってあり、そこに絵が描いてあるのがすごく好きなんですよね。イラストや絵画で、絵だけで勝負をするというのは無理だなと。絵だけではちょっとできません、みたいな気持ちがありますね。
――エッセイマンガも描かれていますが、自画像はなぜ「しょうゆさし」?
スケラッコ しょうゆさしは、結局よくわかんないんです。とりあえず人じゃない感じにしよう、わけわかんない感じにしようと思っていたらいつのまにか描いていたというか・・・いろんな説が自分のなかでもあるんですけど、ひとつに確立できてないです(笑)。
人はけっこう変わっちゃうしな、と昔から思っていて。同じ似顔絵を使い続けてもいいんですけど、変わっていってしまって、それに自分でギャップを感じてくるんじゃないかな。あとは性別とかもあまり知られたくないので、しょうゆさしだとそこもわからないし。
――スケラッコさんの作品では、メインとなる登場人物のほかに、街の風景として、男女もそうだし、子ども、おじいちゃん、車椅子のネコ、子連れの家族など、いろんな人(ネコ)たちが描かれます。日常の風景の描かれ方があたたかいです。
スケラッコ 最近いただく仕事でもそういうイラストを描くことが多かったから、描きながら学んでいるところがあります。いろんな人がいる社会を描こうと意識していると、描きやすい年齢の人ばかりを描くわけにはいきません。社会には本当にいろんな人がいるから、いろんな本からも学びつつ、描いていきたいなと思っています。
(おわり)
編集部からのお知らせ
『みゃーこ湯のトタンくん』原画展を青山ブックセンター(東京)で開催中! 今後も全国巡回予定です!
『みゃーこ湯のトタンくん』原画展を開催&巡回します。
情報はミシマ社ホームページにて随時更新します。
・開催第1弾
場所:青山ブックセンター本店(東京)
会期:2021年12月15日(水)〜2022年1月7日(木)
・開催第2弾《同時開催!》
場所:FOLK old bookstore(大阪)
会期:2022年1月10日(月祝)〜1月30日(日)
1月15日(土)14〜16時 スケラッコさん在廊予定です
場所:誠光社(京都)
会期:2022年1月16日(日)〜31日(月)
初日・1月16日(日)14〜16時 スケラッコさん在廊予定です
・開催第3弾
場所:スタンダードブックストア
会期:2022年2月3日(木)〜24日(金)
・開催第4弾
場所:TOUTEN BOOKSTORE(愛知)
会期:2022年3月8日(火)〜3月21日(月)
全国書店にてサイン本を販売中です!
全国の書店にて、『みゃーこ湯のトタンくん』のイラスト入りサイン本を販売中です。
※サイン本は数に限りがございます。一覧に記載のある店舗でも、すでに完売の場合もございます。最新の在庫状況は各書店さんへ直接お問い合わせください。