第23回
仲野徹と西靖のそろそろ大阪の話をしよう(2)
2019.08.20更新
7月20日(土)発刊から1カ月となる、『仲野教授のそろそろ大阪の話をしよう』(ミシマ社の新レーベル「ちいさいミシマ社」より)。大阪・千林に生まれ育ったお笑い系科学者である仲野センセが、大阪弁、花街、私鉄、食いもん、音楽、おばちゃん、落語、文学、ソース......などさまざまなテーマで、12名の方々と大阪の文化を語り尽くした一冊です。
そして、去る8/4(日)に、梅田にて本書の発刊トークイベントを開催しました。ゲストにお呼びしたのは、「ちちんぷいぷい」のメインパーソナリティーや、報道番組「VOICE」のメインキャスターとして活躍し、いまもお茶の間で強い支持を得る、MBSの看板アナウンサー西靖さん。
終始会場を爆笑の渦に巻き込んだ対談の様子を、2日間でお届けいたします!(前回掲載分はこちら)
(構成:田渕洋二郎、写真:野﨑敬乃)
『仲野教授のそろそろ大阪の話をしよう』仲野徹(ちいさいミシマ社)
前回掲載分はこちら。
ディアモールの中心で「アッ」と叫ぶ
仲野 そういうたら、ついこの前、東京に出張行ったとき目黒駅前の大きなビルに用事があって行ったんですけど、建ち方がモダンすぎて、どこから入ったらわからんかった(笑)。
西 いやいや、どういうことですか。入口がないんですか?
仲野 目的の会社行くのに、総合受付を経由して行くねんけど、その総合受付が2階にあんねん。それでわからんかった。セキュリティもめっちゃ厳しくて。
西 東京のセキュリティは本当に厳しいですよね。大阪はそこまでではない気もするけど、MBSも一応20年前くらい前からIDカードを導入していて。そのころもめたんですよ。
仲野 へえ、そうなん。
西 誰でも知ってる師匠とかがねえ。「どもー!」って入るんだけど、警備の人に「IDカードお願いします」と止められて。「IDカード!? わたし誰かわかりませんか」と(笑)。
仲野 原始的顔認証やな(笑)。
西 いまは折り合いつけてると思いますけど(笑)。あとね、大阪は地下がわかりづらいですよね。
仲野 そうやね。ディアモール大阪(阪神梅田駅、大阪市営地下鉄各線梅田駅、JR大阪駅、JR北新地駅を相互に結ぶ、 公共地下通路と一体化した地下街)とか大嫌いですもん。あそこ、どこに向いて歩いてるかわからなくなるようになってません?
西 確かにね。でも一番思うのは、地下に坂がある、ってどういうことやねんってとこなんですよ。
仲野 坂ある??
西 ディアモールの一番中央にある交差点で、こっちが大阪駅でこっちが北新地、みたいな表札が立って、ヴィーナスみたいなのがあるところ。あそこにむかって、大阪駅からなだらかにくだってるんですよ。
仲野 ああ〜、そういえばなってる。
北新地側から大阪駅へ向かう坂
西 しかもね、そこがすごいことがもう一つあって。天井がドーム状になってるところがあるんですけど。みなさんね、あそこの下に立って上を向いて、「アッ」って声出してみてください。
仲野 どうなんの?
西 めちゃくちゃ響くんですよ。もう感動するくらいの反響で。
仲野 誰もそんなことやらんやろ(笑)。
西 いやいや、本当にお願いですから一回だけでもお願いします。絶対感動するんで。僕もあそこをなにくわぬ顔で歩きながら、たまに「アッ」っていうんですよ。ほんなら、周り歩いてた人がびくっってなったりするんです。
仲野 それはあれやな。大阪人に対する積年の恨みやな(笑)。
西 いやいや(笑)。
仲野 今日帰り寄ったら、聞きにきていただいている人のせいで、そこに行列できとるかもわからんな。
西 (笑)。でもディアモールは、地上の縦横の道がしっかりしている感じではなくて、道が斜めなのがややこしいですよね。それにしても、こんだけぼこぼこ地下を掘りたくっといて、こことここつながってへんのかいな、みたいなところはありまよね。
仲野 そうそう、そうやねん。
(※実際にディアモール大阪の音響を、営業タブチが確認しにいきました!)
大阪の将来の話をしよう
仲野 何の話やったっけ。ああそうや、そろそろ大阪の将来の話をしましょう。
西 そうですね。個人的には、「ゆるさ」が大阪の発展のキモのような気がしますね。東京だと「今は武蔵小杉が熱い」とか、「赤坂が熱い」とか言いますけど、10年後にはそれらももう古いものになってしまう。もうちょっと長い目でゆるく街のことを考えられたらな、と思います。
仲野 そやねえ。大阪もタワーマンションがぼんぼん建ってきて、これでええんかなあ。
西 いま起きている現象が皮肉なもので、大阪市内で小学校を廃校にして、その跡地にタワーマンション建てたんですよ。そしたらたくさん子育て世代が引っ越してきたから、いま小学校が足りなくっているという。なんのこっちゃですよ。
仲野 まあ、何十年も先のことは、誰にも予想できへんから難しいけどねえ。そう考えると、今はいらんけど、ほんまにある程度無駄なものも残す余裕、みたいなのがあるほうがええんかもしれんなあ。小学校もすぐに潰すんじゃなくて。
西 いまは万博もあるし、どんどん街がスクラップアンドビルドされてますからね。仲野先生は70年万博はどうでしたか?
仲野 あれはむちゃくちゃよかったですよ。10回くらいいきましたもん。あの万博で外国人を初めてみました。当時は外国人って街に全然いなかったんですよね。それが、会場にぎょうさんおったから、へええ、って。
西 そうですか(笑)。でも今回の万博にそういう驚きがあるんかなと思って。
仲野 意外とあるんちゃうやろか。万博したのに外国人ひとりもけえへんかったとか(笑)。
西 それはびっくりやわ、万国博覧会なのに(笑)。
仲野 黒門あたりにはようけおるけど、万博会場にはだれもおらへんかったらおもろいな(笑)。
西 いや、でも大阪万博が決まったとき、当時の松井知事が、「いまはVRがすごい発達してるから、それかけたら60億全員万博や」みたいなこと言っておられて。
仲野 それ、来んでええ、いうことやんか(笑)。
西 ほんまですよ!(笑)。
仲野 あと、この本には入らなかったんですけど、『京都ぎらい』の井上章一さんとも最近対談させてもらったんですよ。あの人もええ加減なこと言う人やから、ぜひ「大阪都」になってほしいとか言うんです。
西 なんでですか?
仲野 大阪都になったらね、「府」が京都ひとつだけになって、京都の地位があがる、って。
西 一都一道二府やけど、二都一道一府になる(笑)。
仲野 そんな理由で賛成せんといてくれって。まあでも、大阪ってのはそういう危機を乗り越えてよくなる街なのかもわからんね。
機嫌よう過ごしたら、ええ街になる
西 この本を読んでると、大阪に住んでる人らが、機嫌よく過ごすヒントはたくさんありますよね。
仲野 そうそう、お金使わんと機嫌よう過ごせる。『大阪ソースダイバー』を書かはった堀埜さんとのソースの回なんか典型的ですわ。にしても大阪には冷蔵庫のドアいっぱいにソースがある家って、ほんまにあるんかね。
西 家にソースって何種類あります?
仲野 1種類でしょ。
お客さん 4種類ありますよ。
西 え、4種類!
お客さん ウスター、中濃、特濃、あと、北海道の物産展で買った富良野ソースです。
西 へえ! わざわざ物産展で買うんですね、しかも北海道の。
仲野 ほんまにいたはるんやあ。まったく話変わりますけど、お金使わんで楽しめるいうたら、動物園がよろしいで。なんかしらんけど動物園っておっちゃんがおおいですね。何人かのグループのおっちゃん。
西 そうですか(笑)。よく行かれるんですか?
仲野 年二回くらいはいくね。天王寺動物園。朝から行って、そのあとに新世界の立ち飲み行くのが好き。
西 いいですねえ。
仲野 そんなお金かからへんし、すっごい幸せな気持ちになれる。行く店もほぼ決まってるし。
西 そういえば、この前、金融庁の報告書の「老後2000万円問題」の取材で、岸和田へ行ったんですよ。あの問題って、受け取る人によって感じ方が違うんですよ。
仲野 へえ、そうなんや。
西 働き始めたばかりの若い子とかは、「どう考えても、今の給料ではそんなお金は貯められなくてお先真っ暗です」と。もうちょっとう上の世代になると、「年金だけで暮らすのは無理だと分かっている。でもこの報告書がでてきて、麻生さんが受け取らへんってどういうことやねん」と、臭いものに蓋をしたことに怒ってる人もいる。
仲野 ほんまやねえ。
西 他にもあって、あの報告書って年金だけでは足りないから、投資をしてくださいって書いてあるんですよ。だからその「手持ちの資産を投資しろ」というトーンに怒っている人もいる。でも岸和田の自動車の整備工場を経営している若い人に聞いたらその答えがとっても素敵でね、「岸和田に住んでると、祭りもあって、つながりがあるからさほど不安ではない」と言うんです。
仲野 それすごいなあ。
西 その人は働いていた会社が倒産してひとりになったときに、しゃあないから自分で工場立ち上げようとなったんですけど、工場の場所も整備道具を揃えるのも、全部仲間がやってくれたと言っていて。それは祭りの仲間だそうで。そういうつながりがあるところって、「なんとかなると思える」という精神的なセーフティネットがあるんですよね。
仲野 うんうん。この前ミシマ社から出ている平川克美さんの『21世紀の楕円幻想論』を読んでいたんですけど、それもまさにそういう話で。楕円って中心が二つあるじゃないですか。都会で働くようなカネでしかつながっていない「無縁」の軸と、地域社会という「縁」の軸と2つの中心を行ききすることが大切だって書いてありました。
西 そうなんでよね。岸和田だけでなく、さっきの言ってたタワーマンションに住んでいる人たちも街に組み込んでいけるような仕掛けがあるといいなあと思いますね。
仲野 そうやねえ。そうやってゆるくでも地域とつながって、みんなが機嫌よくしてたらいい街になるのかなあと。
西 いいところに着地しましたね。
仲野 ほんまやね。
仲野・西 今日はありがとうございました。
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代表ミシマが、ちいさいミシマ社について書いた「ミシマ社の話」もどうぞ!
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(「なぜ少部数なのか?」について)
・第76回 「ちいさいミシマ社」と買い切り55%がめざすもの(5月29日掲載)
(「ちいさいミシマ社って具体的になにするの?」について)
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【会期】2019年8月21日(水)〜10月14日(月・祝)
【場所】スーベニアフロムトーキョー(国立新美術館 地下1階
ミュージアムショップ )
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